血管疾患

大動脈解離stanfordBに対するTEVARの長期成績 INSTEAD−XL試験

Endovascular repair of type B aortic dissection: long-term results of the randomized investigation of stent grafts in aortic dissection trial.
Circ Cardiovasc Interv. 2013 Aug;6(4):407-16.

《要約》
背景
胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)は大動脈解離stanfordBに対する治療コンセプトである。合併症のない大動脈解離に対するTEVARの、長期のアウトカムや大動脈形態は明らかなではない。

方法・結果
以前、安定した急性大動脈解離stanfordB140例を、至適薬物療法+TEVAR群(72例)と至適薬物療法のみの群(68例)に無作為に割り付けた。それをランドマーク法を用いてレトロスペクティブに治療開始後2−5年の大動脈関連死・全死亡・病変の進行について解析した。両群間のアウトカムの比較にはCox回帰を用いた。すべてITT解析を行った。5年の時点での全死亡(11.1% vs 19.3%, P=0.13), 大動脈関連死(6.9% vs 19.3%, P=0.04), プログレッション(27.0% vs 46.1%, P=0.04)は、いずれもTEVAR群が薬物療法群よりも低かった。2−5年の間でのランドマーク解析では、全死亡(0% vs 16.9%, P=0.0003), 大動脈関連死(0% vs 16.9%, P=0.0005), 病変の進行(4.1% vs 28.1%, P=0.004)のいずれもTEVARが有益であった。ランドマークを1年や1ヶ月にしても、同様の結果であった。待機的TEVAR5年後の生存率や病変の進行の改善は、90.6%の症例で偽腔の血栓化と関連していた(P<0.0001)。

結果
大動脈解離stanfordBに対し至適薬物療法に加えTEVARを行うことで、5年間の大動脈関連死やプログレッションが減少した。安定した大動脈解離stanfordBでも解剖学的な適応があれば、遠隔期の予後を改善するためTEVARを考慮すべきである。

◯この論文のPICOはなにか
P:合併症のない大動脈解離stanfordB
I:至適薬物療法+TEVAR(TEVAR群)
C:至適薬物療法のみ(薬物療法群)
O:5年生存率、大動脈関連死、プログレッション

病変の進行の定義
TEVARへのクロスオーバー、開胸手術への変更、追加の血管内治療・開胸手術(大動脈破裂・灌流障害・大動脈拡大・最大径>5.5cmによるもの)

inclusion criteria:発症後2−52週
exclusion criteria:TEVARや開胸手術の適応(大動脈径6cm以上)、急性合併症の再発、解剖学的にTEVARが不適(75°以上の大動脈の捻れ、完全な偽腔血栓化)

◯baselineは同等か
同等。
characteristics

◯結果
地域:ドイツ、イタリア、フランスの7施設
登録期間:2003年11月から2005年11月
観察期間:69ヶ月(中央値、四分位範囲62−83ヶ月)
無作為化:コンピュータを用いた置換ブロック法
盲検化:治療介入者や患者は盲検化できない。アウトカム評価者は盲検化されている。
症例数:140例(TEVAR群72例、薬物療法群68例)
必要症例数:140例(薬物療法群の2年間の死亡率を20%、TEVARによるリスク減少が3−5%と仮定し、power80%、αlevel0.05として算出)
解析:ITT解析

TEVAR群 vs 薬物療法群
5年生存率:11.1%±3.7% vs 19.3±4.8%(P=0.13)
大動脈関連死:6.9±3.0% vs 19.3±4.8%(P=0.045)
プログレッション:27.0±5.3% vs 46.1±6.1%(P=0.04)

figure
(図表はすべて本文から引用)

ランドマーク解析は割愛する。

◯感想/批判的吟味
偽腔が開存したstanfordBに対しては、TEVARによって偽腔の血栓化が促進され、大動脈リモデリングが抑制される。短期的なアウトカムは薬物療法に劣っている傾向があるが、長期になると大動脈リモデリングを抑制する効果が現れてきているのだろう。