弁膜症

高度虚血性僧帽弁閉鎖不全 形成術と置換術の比較

Two-Year Outcomes of Surgical Treatment of Severe Ischemic Mitral Regurgitation.
N Engl J Med. 2015 Nov 9. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
高度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対し僧帽弁形成術(MVP)と僧帽弁置換術(MVR)を比較した無作為化試験で、術後1年での、左室収縮末期容積係数(LVESVI)、生存率、有害事象に違いがなかったことを報告した。しかしながら、MVPを施行した患者で中等度または高度のMRの再発が多くみられた。この試験の2年のアウトカムを報告する。

方法
251例をMVPとMVRに無作為に割り付けた。患者を2年間追跡し、臨床的アウトカムとエコー上のアウトカムを評価した。

結果
生存している患者では、手術2年後のLVESVIの平均値は、repair群で52.6±27.7ml/m2体表面積、replacement群で60.6±39.0ml/m2体表面積であった(baselineからの平均の変化値はそれぞれ、−9.0mlと−6.5mlであった)。手術2年後の死亡率は、repair群では19.0%、replacement群では23.2%であった(HR:0.79、95%CI:0.46−1.35)。LVESVIのランクに基づくアセスメントでは、群間差はみられなかった(z score=-1.32, P=0.19)。中等度もしくは高度のMRの手術2年後の再発率は、repair群で有意に多かった(58.8% vs 3.8%, P<0.001)。重大な有害事象とすべての再入院に群間差はなかったが、心不全に関連した重大な有害事象と心血管イベントによる再入院は、repair群で多かった。

結論
高度の虚血性MRのためMVPもしくはMVRが施行された患者において、手術2年後の左室リバースリモデリングに群間差はなかった。repair群ではより頻繁にMRの再発を認め、心不全に関連した有害事象と心血管イベントによる再入院が増加した。

◯この論文のPICOはなにか
P:虚血性の重症MR
I:僧帽弁形成術(repair群)
C:僧帽弁置換術(replacement群)
O:左室リバースリモデリングの程度(LVESVI)
secondary endpointとして、MACCE(死亡、脳梗塞、再僧帽弁手術、心不全による入院、NYHA分類の悪化)が設定されている。

inclusion criteria:ERO0.4cm2以上、ERO0.4cm2以下ならjet areaなど他の所見も評価する
exclusion criteria:構造的な僧帽弁疾患、乳頭筋断裂

◯baselineは同等か
同等。以下、ざっくりと。
年齢69歳、男性61%、腎不全1/4、previousCABG1/5, 心不全1/3、OMI3/4、ICD15%、EF40%、NYHAⅢorⅣ60%、同時に行われた治療(CABG3/4、三尖弁形成術とMazeがそれぞれ15%)

◯結果
フォローアップ期間は2年間。
death
repair群 vs replacement群
死亡:19.0% vs 23.2%
心不全による入院:21.4% vs 17.6%
中等度もしくは高度MRの再発:58.8% vs 3.8%
いずれも有意差なし。

◯感想/批判的吟味
・死亡をprimary endpointにした試験ではないので、この結果でMVPとMVRに差がないとは言えない。
・曲線の右側にヒゲが多い印象を受ける。
・MVPは左室のリバースリモデリングに寄与する。それが、術後比較的早期に死亡率の改善をもたらすかはわからない。