心不全

GISSI-HF試験 ロスバスタチンは慢性心不全の生命予後には寄与しない

Effect of rosuvastatin in patients with chronic heart failure (the GISSI-HF trial): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Lancet. 2008 Oct 4;372(9645):1231-9

《要約》
背景
大規模な観察研究、小規模の前向き試験、無作為化試験のpost−hoc解析で、慢性心不全に対するスタチンのベネフィットが示唆されている。しかしながら、以前の試験は方法論が不十分であったため、慢性心不全に対するロスバスタチンの有効性と安全性を検証した。

方法
イタリア国内の31施設で、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験を行った。18歳以上の、NYHAⅡ-Ⅲの慢性心不全患者を、ロスバスタチ投与(10mg/日)とプラセボ投与に無作為に割り付けた。心不全の原因やLVEFは問わない。割り付けは隠匿化され、コンピュータ化した電話無作為化システムを用いた。患者は中央値3.9年のフォローアップが行なわれた。主要評価項目は全死亡、全死亡と心血管イベントによる入院である。ITT解析を行った。

結果
無作為化されたすべての患者の解析を行った。ロスバスタチン群で657例(29%)、プラセボ群で644例(28%)が死亡した(adjusted HR:1.00[95%CI:0.898−1.122)。ロスバスタチン群で1305例(57%)、プラセボ群で1283例(56%)で全死亡と心血管イベントによる入院があった(adjusted HR:1.01[95%CI:0.908−1.112)。両群で、胃腸障害が最も高頻度な有害事象であった(ロスバスタチン群34例[1%], プラセボ群44例[2%])。

結論
慢性心不全に対するロスバスタチン10mg/日の投与は安全だが、臨床的なアウトカムには影響がない。

◯この論文のPICOはなにか
P:NYHAⅡ-Ⅲの慢性心不全
I:ロスバスタチン10mg/日の内服(ロスバスタチン群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:死亡、死亡と心血管イベントによる入院のco-primary endpoint

inclusion criteria:18歳以上、LVEF<40%、LVEF>40%で過去に1回以上うっ血性心不全による入院歴がある事
exclusion criteria:使用する薬剤に対する禁忌、悪性腫瘍などの併存疾患、ランダム化1ヶ月以内の治験薬の投与、ACS、1ヶ月以内の血行再建、ランダム化後3ヶ月以内に予定された心臓手術、Cr>2.5mg/dl、AST/ALTが正常上限の1.5倍以上、妊婦、授乳婦、妊娠する可能性がある女性

◯ランダム化されているか
隠匿化されたcomputed telephone randomization systemによってランダム化を行う。

◯baselineは同等か
どこに群間差があるかわからない。tableにも本文にも記載なし。
characteristics

◯症例数は十分か
プラセボ群で3年間でイベント発生が25%あり、ロスバスタチンにより15%のリスク低下すると仮定し、power90%として、1252例のイベント発生が必要と算出されている。

◯盲検化されているか
患者、治療介入者、outcome評価者は盲検化されている。

◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
不適切なインフォームドコンセントなどがあった57/4631例を除き、ITT解析が行なわれている。

◯結果
フォローアップ期間は3.9年(中央値)。
試験終了時に割り付けられた治療を行っていなかった症例が、ロスバスタチン群で790例(35%)、プラセボ群で831例(36%)あった。
result

◯感想/批判的吟味
primary endpointで有意差がないが、必要なイベント発生数は超えているので、スタチンは心不全の生命予後に本当に寄与しないのだろう。

無作為化比較試験だが、baselineで群間差が生じてしまっており、多変量解析が行なわれている。