虚血性心疾患

n-3脂肪酸をハイリスクな患者に使用しても、死亡率や血管イベントは減らない

n-3 fatty acids in patients with multiple cardiovascular risk factors.
N Engl J Med. 2013 May 9;368(19):1800-8

《要約》
背景
臨床試験で、心筋梗塞や心不全の既往がある患者に対するn-3多価不飽和脂肪酸の有効性は示されている。冠危険因子を複数持った患者、または心筋梗塞以外の動脈硬化性疾患を有する患者に対するこれらの治療の有効性を検証した。

方法
二重盲検、プラセボ対照臨床試験で、イタリアの860の総合診療医でフォローされている患者を登録した。冠危険因子を複数有する患者、あるいは心筋梗塞以外の動脈硬化性疾患を有する患者を組み入れた。患者は、n-3脂肪酸1g/日とプラセボに無作為化された。当初示された主要評価項目は死亡率、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞であった。1年の時点で予想されたよりイベント発生率が低く、主要評価項目は心血管死までの時間または心血管イベントでの入院までの時間と変更した。

結果
12513例が登録され、6244例がn-3脂肪酸へ、6269例がプラセボへ割り付けられた。中央値5年までのフォローアップで、主要評価項目が1478/12505例(11.9%)に起こり、n-3脂肪酸群で733/6239例(11.7%)、プラセボ群で745/6266例(11.9%)であった(調整後のHR:0.97、95%CI:0.88−1.08)。副次評価項目でも有意差はなかった。

結論
冠危険因子を複数有する患者や心筋梗塞以外の動脈硬化性疾患を有する患者の集団において、n-3脂肪酸は心血管死亡率・罹病率を低下させない。

◯この論文のPICOはなにか
P:冠危険因子を複数有する患者や心筋梗塞以外の動脈硬化性疾患を有する患者
I:1日1gのn−3脂肪酸の内服(n-3脂肪酸群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:1年後の死亡率、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞
(イベント発生率が低かったため試験途中でプロトコールの変更があり、心血管死までの時間または心血管イベントでの入院までの時間となった)

inclusion criteria:冠危険因子を複数有する患者とは以下の要因のうち4つ以上、もしくは糖尿病と以下の要因を1つ以上有する患者である(65歳以上、男性、高血圧、高コレステロール血症、喫煙者、心血管疾患の家族歴)。心筋梗塞以外の動脈硬化性疾患とは、狭心症、末梢動脈疾患、脳梗塞やTIAの既往、動脈血行再建術の既往である。
exclusion criteria:心筋梗塞の既往、n-3脂肪酸へのアレルギー、妊娠、生命予後の短い併存疾患

◯ランダム化されているか
電話を用いたcomputer-generated randomizationで隠匿化されている。

◯baselineは同等か
男性とカルシウム拮抗薬の内服の割合が、n-3脂肪酸群で若干多いが、他は同等。以下、ざっくりと。
年齢64例、男性60%、狭心症12%、脳梗塞5%、末梢動脈疾患8%、高血圧84%、高高レステロール血症70%、糖尿病60%、喫煙者22%、ACEI/ARB65%、βblocker20%、インスリン6%、抗血小板薬22%。

◯症例数は十分か
当初のprimary endpointが1年で2%起こるという仮定だったが、実際には1.4%であり、プロトコールの変更を行っている。変更後のprimary endpointはプラセボ群で15%/5年、リスク減少は15%、脱落が10%と仮定し、power90%、αlevel0.05で必要症例数は11200例と算出されている。n-3脂肪酸群6244例、プラセボ群6269例の計12513例が登録されている。

◯盲検化されているか
double blind。
outcome評価者や解析者も盲検化されている。

◯すべての患者の転帰がoutcomeに反映されているか
modified ITT解析。脱落は8例。

◯結果
n-3脂肪酸群では17.9%が、プラセボ群では19.4%で試験を中止している。

n-3脂肪酸群 vs プラセボ群、HR(95%CI)
primary endpoint:11.7% vs 11.9%, 0.97(0.88-1.08)
per protocol解析では
primary endpoint:10.3% vs 10.1%, 1.01(0.89-1.14)
result
(本文より引用)

◯感想/批判的吟味
・企業がスポンサー
・企業は解析に加わっていない
・プロトコール変更
・結局primary endpointで有意差がつかなかった

冠危険因子を複数有する患者、あるいはすでに動脈硬化性疾患を有する患者であっても、n−3脂肪酸には死亡率や血管イベントを改善する効果はない。