虚血性心疾患

冠動脈疾患のない糖尿病でのn-3脂肪酸の心血管イベント抑制効果 

観察研究では、n-3脂肪酸の摂取により冠動脈疾患が減少することが知られています。動脈硬化の抑制、不整脈の減少、心不全の抑制などいろいろ考えられ、その効果がRCTで検証されてきました。GISSI-Prevensioneのような1990年代の古いRCTでは死亡率が有意に減少しましたが、β遮断薬などの薬物療法は、現在のものとは大きくかけ離れていました。

2000年代になっていくつかのRCTがやられましたが、どれも結果はネガティブなものです1-3)。JELIS試験二次予防のサブグループで心血管イベントを減らしたことは、Lancetにも載り当時はメーカーもよく喧伝していたので広く知られていますが、オープンラベルのRCTで、かつ不安定狭心症というソフトエンドポイントでの有意差なので、かなりバイアスが入ったものだと思います。心筋梗塞や死亡といったハードエンドポイントにはもちろん差はありませんでした4)

個人的には、n-3脂肪酸は動脈硬化の進展抑制に有効で、若い頃から魚をよく摂るような食習慣の人はやっぱいいんだろうと思います。ただ、心血管イベントのハイリスク、あるいはその二次予防のような動脈硬化が進んだ人だと、n-3脂肪酸を多少とったぐらいでは動脈硬化に歯止めが効かないのではないでしょうか。

CochraneやAgency for Healthcare Research and Qualityも、心血管イベント抑制のためのn-3脂肪酸の内服はほとんど効果がないと結論付けています5-6)

上記の2000年代に行われたRCTには心筋梗塞二次予防を対象にしたものもあり、なんで今さら心筋梗塞一次予防を対象にしているかわかりませんが、一次予防で糖尿病がある人にn-3脂肪酸の心血管イベント抑制効果を検証したRCTがNEJMにでました。

Effects of n−3 Fatty Acid Supplements in Diabetes Mellitus
N Engl J Med 2018; 379:1540-1550

【PICO】
P:冠動脈疾患のない糖尿病
I:n-3脂肪酸840mg(EPA460mg、DHA380mg)
C:プラセボ(オリーブオイル)
O:重大な血管イベント(心筋梗塞、脳梗塞、TIA、血管死)

inclusion criteria:40歳以上、1型糖尿病、2型糖尿病

【試験の概要】
デザイン:RCT (オープンラベル、非劣性試験など)
地域:イギリス
登録期間:2005年6月〜2011年7月
観察期間:7.4年
症例数:15480例(n-3脂肪酸群7740例、、プラセボ群7740例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Bayer社、Abbott社、Mylan社)

【患者背景】
両群間に差はない。
ざっくりと。
年齢63歳、BMI≧30が半分弱、アスピリン1/3、スタチン3/4、糖尿病歴7年

アドヒアランス76%

フォローアップ期間中、n-3脂肪酸以外の薬の使用も差はない。

【結果】
n-3脂肪酸群 vs プラセボ群
心筋梗塞、脳梗塞、TIA、血管死 (primary endpoint)
8.9% vs 9.2% HR:0.97(95%CI:0.87-1.08)
内服期間別に解析しても、有意差なし。

全死亡
9.7% vs 10.2% HR:0.95(95%CI:0.86-1.05)

探索的な解析では、全死亡の28%は血管死で、それはn-3脂肪酸群で少なかった。
2.5% vs 3.1% HR:0.82(95%CI:0.68-0.98)

【まとめと感想】
やっぱりと言うべきか、冠動脈疾患のない糖尿病でn-3脂肪酸による心血管イベント抑制効果はありませんでした。

ただ、内服期間別のフォレストプロットをみると、内服期間が長くなるとn-3脂肪酸がbetterな方へだんだん寄っていくので、より長期にn-3脂肪酸を摂取しているといいのかもしれません。この程度のEPAとDHAの量なら魚(マグロ、ブリ、イワシ、サバなど)から摂れるので、わざわざ薬を飲むより魚を食べたほうがよさそうです。

1)Circ 2010;122:2152-2159
2)NEJM 2010;363:2015-2026
3)NEJM 2013:368;1800-1808
4)Lancet2007;369:1090−1098
5)Cochrane Database Syst Rev 2018;7:CD003177.
6)https://effectivehealthcare.ahrq.gov/topics/fatty-acids-cardiovascular-disease/research