虚血性心疾患

PCSK9阻害薬の効果、適応、安全性

動脈硬化性心血管疾患があり、高容量スタチンを使用してもLDLコレステロールが70mg/dl以上の患者27564例を対象とし、PCSK9阻害薬エボロクマブとプラセボに無作為に割り付けた二重盲検比較試験であるFOURIER試験では、エボロクマブ群で有意に心血管イベントの低下を認めた(9.8%vs11.3%、フォローアップ2.2年)。心血管イベントは、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞・不安定狭心症による入院・血行再建の複合エンドポイントで、有意差があった主なものは、心筋梗塞(3.4%vs4.6%)と血行再建(5.5%vs7.0%)だった(1)。

心血管イベントの絶対リスク減少は1.5%/2.2年。日本人では欧米人に比べ心筋梗塞の発症率が低いので、その効果はさらに小さいものになると考えるとちょっと微妙。FOURIER試験で対象とした患者群はもともと心血管リスクが高い集団だが、その中でもより効果が高い集団が事前にわかるといいかもしれない。

サブグループ解析では、達成したLDLコレステロール値により5群(<0.5, 0.5-1.3, 1.3-1.8, 1.8-2.6, >2.6mmol/L)に分け、最小値群は最高値群より有意に心血管イベントが減少することを報告され(HR:0.76)、PCSK9阻害薬でもthe lower, the betterであることが証明された(2)。ただ、これは使用開始4週間時点でのLDLコレステロール値なので、エボロクマブを使用する患者を選別するという目的には使えない。

別のサブ解析では、baselineの高感度CRPが高くなると、心血管イベントの絶対リスク減少が大きかった(<1mg/L:1.6%, 1-3mg/L:1.8%, >3mg/L:2.6%)。もしかしたら、高感度CRPは参考になるのかもしれないが、低いから使わなくていいということではなさそう(3)。

ESCでは、FHの心血管疾患一次予防の場合は最大量スタチン±エゼチミブ使用下でLDLコレステロール>100mg/dlならPCSK9阻害薬考慮。FHもしくは高リスク患者の二次予防の場合は、同様の条件で>70mg/dlなら考慮としている(4)。動脈硬化学会も似たような見解を表明してる(5)。なので、やっぱりこの条件を満たす場合には、患者さんと要相談って感じです。

あとは、adoverse eventについてだが、FOURIER試験のデータでは、肝機能障害、CK上昇、神経認知機能、悪性腫瘍、糖尿病発症、脳出血などの発生は、達成したLDLこれステロール値に関わらず発生率に差はなかったとしている(2)。だが、それぞれのadverse eventの発生率はprimary endpointより1ケタ小さいわけだから、その差を検出するパワーは全然足りていない。なので、1つのRCTのデータだけで、PCSK9阻害薬がadverse eventを増やさないとはとてもじゃないが言えない。

今後、特許が切れるまでは、そういうデータが出てくることはあまり期待できないが、エボロクマブを使用するか否かについてはそういうことも含めて患者さんには説明した方が良いだろう。

(1)N Engl J Med. 2017 May 4;376(18):1713-1722.
(2)Lancet. 2017 Oct 28;390(10106):1962-1971.
(3)Circulation. 2018 Mar 12. pii: CIRCULATIONAHA.118.034032. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.034032. [Epub ahead of print]
(4)Eur Heart J. 2017 Aug 1;38(29):2245-2255.
(5)http://www.j-athero.org/topics/pdf/seimei_20180302.pdf