心不全

ASVは睡眠時無呼吸がある心不全の死亡や入院を減らすことができない CAT-HF試験

Cardiovascular Outcomes With Minute Ventilation-Targeted Adaptive Servo-Ventilation Therapy in Heart Failure: The CAT-HF Trial.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(12):1577-1587.

《要約》
背景
睡眠時無呼吸は入院した心不全患者によくみられ、死亡率の上昇と関連がある。

目的
CAT-HF試験は、minute ventilation adaptive servo-ventilation(MV-ASV)が中等度から高度の睡眠時無呼吸を有する心不全患者の心血管アウトカムを改善するか調べた試験である。

方法
心不全で入院し、中等度から高度の睡眠時無呼吸がある患者を、ASV+至適薬物療法(OMT)とOMT単独の治療に無作為に割り付けた。主要評価項目は、6ヶ月時点での死亡、心血管疾患による入院、6分間歩行の変化率である。

結果
126/215例が無作為化され、SERVE-HF試験の結果が発表されたため、早期に登録中止となった。平均デバイス使用時間は2.7時間/夜間であった。6ヶ月時点でのAHIは、ASV群では35.7/時間から2.1/時間へ、OMT単独群では35.1/時間から19.0/時間へ減少し、有意差を認めた。主要評価項目はASV群とOMT単独群で有意差はなかった。主要評価項目のコンポーネントでも有意差はなかった。治療とEFとの間に交互作用はなかったが、事前に設定したサブグループ解析では、HFpEFへのポジティブな効果が示唆された。

結論
中等度から高度の睡眠時無呼吸を有する心不全患者では、OMTにASVを加えても6ヶ月後の心血管アウトカムは改善しなかった。HFpEFに対するASVの効果を判定するにはパワーが不足しているが、追加の試験の根拠になりえる。

◇この論文のPICOはなにか
P:AHI15以上の睡眠時無呼吸を有する急性心不全
I:ASV+OMT(ASV群)
C:OMTのみ(OMT単独群)
O:6ヶ月時点での死亡、心血管疾患による入院、6分間歩行の変化率

inclusion criteria:21歳以上、急性心不全(HFrEF、HFpEF)で、安静時あるいは軽労作での呼吸困難があり、BNP≧300pg/ml、またはNT proBNP≧1200pg/mlで、かつ1つ以上の所見(起座呼吸、ラ音、肺うっ血、PCWP≧25mmHg)があること
exclusion criteria:本文には記載なし

◇baselineは同等か
同等。年齢は62歳ぐらいで、BMI32と肥満。NYHAⅡ-Ⅲが多く、平均LVEF30%、心房細動40%、薬剤の使用率に差はない。

(本文から引用)

◇試験の概要
地域:アメリカ、ドイツ
登録期間:2013年12月〜2015年5月
観察期間:6ヶ月
無作為化:HFpEF(EF>45%)・HFpEF(EF≦45%)、施設で層別化した上で、ブロックランダム化する。
盲検化:オープンラベル
必要症例数:215例(死亡と心血管死による入院はASV群25%、OMT単独群で35%、6分間歩行の改善はASV群40%、OMT単独群20%と仮定し、αlevel0.05、power80%で算出)
症例数:126例(ASV群65例、OMT単独群61例)
追跡率:フォローアップ不能や同意の撤回などのため、ASV群87%、OMT単独群90%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(ResMed社)

◇結果
ASV群の6ヶ月時点での平均デバイス使用時間は2.7時間/日。


(本文から引用)

◇批判的吟味
・パワー不足のため、ASVに効果がないとは言えない。
・HFpEFだとポジティブな結果だが、信頼区間が広い。これも症例数が少ないためか。
・6ヶ月時点での死亡と入院が、足して40%というのは少し多いように思う。

◇感想
AHI>15/hの睡眠時無呼吸がある心不全へのASVの導入は、死亡・心血管疾患による入院・6分間歩行の変化率を改善しなかった。ただ、SERVE-HF試験の結果から試験が早期中止になっているため、パワー不足であり、本当に差がないかどうかは判断が難しく、すっきりしない結果。

そもそもASVとは、PEEPと患者の呼吸に合わせた調節呼吸を行うもの。それにより、前負荷の軽減や、交感神経の抑制を介した後負荷の減少が期待でき、心血管アウトカムを減少させることができると言われてきた。

しかし、中枢性無呼吸がメインのEF35%以下の心不全を対象にしたSERVE-HF試験では、primary endpointに差がなく、むしろ心血管死を増加させた。圧のかけすぎ、クロスオーバーが多いなどが試験の問題点としてあげられていたが、前負荷に依存した血行動態(脱水、心房細動合併)では、ASVにより血行動態が悪化し、それにより心血管死が増加した可能性が指摘されている。

HFrEFでも閉塞型がメインの場合、あるいは睡眠時無呼吸がないか軽度の場合には、SERVE-HF試験の結果をそのまま当てはめることはできない。しかし、HFrEFであれが心房細動の合併や利尿薬による脱水リスクは高くなるので、ASVが前負荷に依存した血行動態を悪化させるのであれば、睡眠時無呼吸のタイプや程度によらずASVによる心血管イベントリスクが上昇する可能性がある。

HFrEFでもASVが有効な症例もあるだろうが、どのような症例が良いのか、あるいはどのような設定が良いのかが現時点ではわからないので、害になりうる治療は避けた方が無難だろう。

SERVE-HF試験ではHFpEFは含まれておらず、またこのCAT-HF試験ではHFpEFでポジティブな結果が出ていたので、ASVがHFpEFの心不全増悪を抑えるかもしれない。今のところHFpEFではエビデンスのある薬剤がないため、もしそうだとしたらおもしろい。