心不全

メトホルミンは、CKD、CHFでも全死亡と心不全入院を減少させる

Clinical Outcomes of Metformin Use in Populations With Chronic Kidney Disease, Congestive Heart Failure, or Chronic Liver Disease: A Systematic Review.
Ann Intern Med. 2017 Jan 3. [Epub ahead of print]

◇論文の概要
<背景>
メトホルミンの使用に関するFDAの警告の変化は、今まで禁忌あるいは慎重投与だった患者への処方を増やすかもしれない。処方する者は、これらの患者に対するメトホルミンの臨床的アウトカムを理解するべき。

<目的>
2型糖尿病で、中等度から高度の慢性腎臓病(CKD)、うっ血性心不全(CHF)、肝障害のある慢性肝臓病(CLD)の患者を対象とし、メトホルミンの臨床的アウトカムを統合すること。

<データ収集>
MEDLINE:1994年1月〜2016年9月
コクランライブラリー・EMBASE:1994年1月〜2015年11月

<研究の選択>
英語論文であり、以下の3つを満たすこと。
1)CKD(eGFR60未満)、CHF、CLDを合併した2型糖尿病を対象とした研究であること
2)メトホルミンを含んだレジメンと含まないレジメンの比較であること
3)全死亡、主要な心血管イベントをアウトカムにしていること

<データ抽出>
独立した2人のレビュアーが、情報の要約を行い、研究の質とエビデンスの強度を評価する。

<データの統合>
17の観察研究を質的・量的に統合すると、メトホルミンはCKD、CHF、CLDにおいて全死亡の減少と関連があった。また、CKD、CHFでは心不全入院の減少と関連があった。


CKDでは、HR:0.78(95%CI:0.63−0.96)と、メトホルミンにより全死亡が有意に低下している。ただし、I2統計量:79.8%と異質性は高い。


CHFについての対象となった観察研究のfunnel plotで、Egger’s test P=0.09と非対象ではない。CKDとCLDは、選択された研究の数が少ないため掲載されていない。


CHFでも、HR:0.78(95%CI:0.71−0.87)と、メトホルミンにより全死亡が有意に低下しているが、これもI2統計量:62.3%と異質性は高い。

<限界>
エビデンスの強度は低く、全死亡や心血管イベント以外のデータは十分でない。観察研究の統合であり、また観察期間は一定ではない。

<結論>
CKD、CHF、CLDにおいてメトホルミンの使用は、主要な臨床的アウトカムの改善と関連があった。我々のデータは、メトホルミン使用に関する最近の流れを支持するものである。

◇論文のPICOはなにか
P:CKD、CHF、CLDを合併した2型糖尿病
I:メトホルミンを含んだレジメン
C:メトホルミンを含まないレジメン
O:全死亡、主要な心血管イベント

◇批判的吟味
・CKD、CHF、肝障害を伴うCLDでもメトホルミンにより死亡率が低下しているが、異質性は高く結果の信頼性は低い。
・CKDやCHFの定義が試験により異なっており、重症度・患者背景の違いより異質性が高くなった可能性。
・メトホルミン投与量がわからない(どのれくらいの量が許容できるのかわからない)。

◇感想
メトホルミンは体重増加や低血糖の原因にならず、血糖降下作用を超えた死亡率の低下が示されている薬剤。しかし、乳酸アシドーシスの懸念から、CKD、CHF、CLDでは禁忌になっていました。最近になり、これらの疾患でも比較的安全に投与できるとして、処方は増えているみたい。

日本人は欧米人と異なり、インスリン分泌が低下しやすく、彼らほどインスリン抵抗性が高くありませんが、薬価・低血糖リスクなどを考慮して、個人的にはまずメトホルミンから処方することが多いです。心不全やeGFR30以上のCKDでも使えるということなので、循環器内科医としてはありがたいです。