【レビュー】分子標的治療の心血管毒性

Cardiovascular Toxic Effects of Targeted Cancer Therapies
N Engl J Med 2016; 375:1457-1467

悪性腫瘍治療による心血管合併症の歴史
アントラサイクリンと放射線治療が心血管合併症の原因ということが知られている。アントラサイクリンは容量依存的に心毒性を示す。放射線治療は、特に胸部の場合、心筋、弁、心外膜、冠動脈への毒性がある。

抗HER2抗体
抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、HER2陽性乳癌の予後を改善した。しかし、ドキソルビシンやシクロホスファミドと併用した初期のデータでは、27%で症候性心不全や無症候性心機能障害を認めた。そのため、トラスツズマブ使用中は定期的な心機能評価が求められ、アントラサイクリンに続きトラスツズマブを使用する場合は、相乗的な心毒性を引き起こす可能性を念頭に置かなくてはならない。

トラスツズマブの心毒性についての認識が広がり、心機能がモニタリングされるようになったためか、現在では、症候性心不全は2−4%、心機能低下は3−19%と報告されている。

最近の臨床試験では、HER2陽性乳癌に対しパクリタキセルとトラスツズマブで治療した406例で、臨床的な心不全は2例(0.5%)、収縮不全は13例(3.2%)にしか起こらなかった。HER2陽性乳癌の10年間のフォローアップでは心機能低下は、パクリタキセル・シクロホスファミド・トラスツズマブを含んだレジメンに割り付けられた患者では9.4%、アントラサイクリンを含んだレジメンでは19.2%であった。

HER2を標的とした新しい治療が承認され、トラスツズマブとの併用も行われているが、その心毒性は十分明らかになっていない。

トラスツズマブの臨床試験では、心疾患や心不全が除外されているため、データベースから抽出したトラスツズマブに関連した心毒性は臨床試験のそれよりも多い。

アントラサイクリン使用後の心機能低下に対し、標準的な心不全治療を行うことでわずかな心機能改善が得られた報告もある。ただ、プラセボと比較していないため自然経過によるものかもしれない。トラスツズマブによる心筋症では、2/3で症状や心機能の改善を認めたが、1/3は心機能低下が持続した。

抗VEGF抗体
血管内皮増殖因子A(VEGFA)は腫瘍から分泌され、VEGF受容体に結合することで血管形成の重要な役割を果たす。抗VEGF抗体はいくつかの癌に対し、FDAから認可されている。抗VEGF抗体は、高血圧、血管毒性、心筋症など様々な心血管疾患との関連が報告されている。

ほぼすべての患者で、容量依存的で一過性に血圧が上昇する。ベバシズマブ(商品名:アバスチン)とスニチニブ(商品名:スーテント)は20−25%の血圧上昇が認められる。収縮期血圧と拡張期血圧のいずれにも影響がある。

VEGFは血管拡張物質であるNOとプロスタサイクリンを増加させ、エンドセリン1の産生を抑制する。VEGFは腎臓にも存在する。抗VEGF抗体が血管収縮を招き、糸球体機能を変化させることで、血圧が上昇するものと推測されている。

抗VEGF抗体は血管イベント(血栓症)と心筋症のリスクを増大させる。パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)とスニチニブは前向きのサーベイランスにおいて、9%で心機能が有意に低下し、1%で症候性心不全を認めた。

後ろ向きの研究では、27%で心血管毒性が認められ、血圧上昇を含めると心血管毒性が認められた症例は64%に上る。別の後ろ向きの研究ではスニチニブは心機能障害を28%で認め、うっ血性心不全になった症例は8%に上った。

チロシンキナーゼ阻害薬
イマチニブ(商品名:イレッサ)は最初のチロシンキナーゼ阻害薬である、慢性骨髄性白血病で活性化されるABL1キナーゼや、腸管間質腫瘍で活性化されるKITやPDGFRAを阻害することで、これらの悪性腫瘍を自然暦を変え、致死的な疾患から管理できる慢性疾患に変えた。CMLの5年生存率は90%を超えるようになった。

イマチニブ耐性となった患者に対し、新世代のチロシンキナーゼ阻害薬が開発され、first-lineの治療となった。

チロシンキナーゼ阻害薬も様々な心血管毒性があるが、イマチニブの心血管合併症は少ない。ダサチニブ(商品名:スプリセル)は肺高血圧と、ニロチニブ(商品名:タシグナ)とポナチニブ(商品名:アイクルシグ)は血管イベントと関連がある。

ポナチニブは血管イベントのため、米国の市場から消えた。

イブルチニブ(商品名:イムブルビカカプセル)はB細胞悪性腫瘍に対し効果が示されているが、3%に入院または侵襲的治療を要するgrade3以上の心房細動が出現する。イブルチニブの臨床試験では心毒性のスクリーニングがされていなかったので、その他の不整脈や無症候性心房細動が増えたかどうかは明らかではない。同様にトラメチニブ(商品名:メキニスト)は7%に心機能低下が報告されており、FDAから治療中は心臓のモニタリングを推奨されている。

その他
サリドマイドとレナリドミド(商品名:レブラミド)の2つの免疫調整薬は、静脈血栓塞栓症のリスクが高く、特に高容量のデキサメサゾンと併用するとリスクは増大する。免疫調整薬は動脈イベントとも関連があり、多発性骨髄腫に対するレナリドミドと高容量のデキサメサゾンの併用は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを増大させる。リスクの高い患者では、予防的抗凝固療法が勧められる。

カルフィルゾミブ(商品名:カイプロリス)は多発性骨髄腫に対し高い有効性があるが、静脈心血管合併症のリスクは高い。カルフィルゾミブ+レナリドミド+高容量デキサメサゾンとレナリドミド+高容量デキサメサゾンの有効性を比較した最近の臨床試験では、カルフィゾミブ群で心血管合併症(心不全、虚血性心疾患、静脈血栓塞栓症、高血圧症)が多かった。

免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体では、中止後に自己免疫性心筋炎を起こした症例が報告されており、マウスでは薬剤の中止後に心筋症と突然死を起こすことが報告されている。また、他剤との併用時の心血管における安全性は明らかではない。

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