血管疾患

原因不明の静脈血栓塞栓症(VTE) 悪性腫瘍検索のためのCTはメリットなし

Screening for Occult Cancer in Unprovoked Venous Thromboembolism.
N Engl J Med. 2015 Aug 20;373(8):697-704

《要約》
背景
静脈血栓塞栓症(VTE)は悪性腫瘍の最も早期の兆候である可能性がある。現在、原因不全のVTEに対する悪性腫瘍のスクリーニングは多岐にわたる。初回の原因不明のVTEに患者において、腹部骨盤の広範囲のCTが悪性腫瘍のスクリーニングに有効かどうかを評価した。

方法
カナダで多施設、open-label、無作為化対照試験を行った。悪性腫瘍の限定的な検索をおこなう群(採血、胸部レントゲン、乳がん・子宮頸がん・前立腺癌のスクリーニング)とCTまで行う群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、1年間のフォローアップ期間で、見逃した悪性腫瘍を発見することである。

結果
854例を無作為化した。1年間のフォローアップ期間で悪性腫瘍の診断がついたのは、限定的スクリーニング群で14/431例(3.2%)、CT併用群で19/423例(4.5%)であった。主要評価項目解析では、悪性腫瘍の見逃しが限定的スクリーニング群では4例(29%)、CT併用群では5例(26%)であった(P=1.0)。悪性腫瘍の診断までの時間(限定的スクリーニング群vsCT併用群:4.2vs4.0ヶ月、P=0.88)や悪性腫瘍関連死(1.4%vs0.9%、P=0.75)に群間差はなかった。

結論
初回の原因不明のVTEでは、悪性腫瘍の合併は少ない。ルーチンに腹部と骨盤のCTを撮ることには、臨床的な有益性はなかった。

◯この論文のPICOはなにか
P:初回の原因不明のVTE
I:限定的スクリーニングに加えて腹部と骨盤のCTを行う(CT併用群)
C:限定的スクリーニングのみ行う
O:1年のフォローアップ期間で見逃した悪性腫瘍の発見率

inclusion criteria:近位部下肢静脈あるいは肺塞栓症、もしくはその両方
exclusion criteria:18歳未満、同意が得られない、造影剤アレルギー、CCr<60ml/min、閉所恐怖症、広場恐怖、体重>130kg、潰瘍性大腸炎、緑内障

原因不明のVTEの定義
以下のいずれもないこと。活動性の悪性腫瘍、妊娠、栓友病、原因不明のVTEの既往、麻痺、不全麻痺、下肢の安静、大手術

限定的スクリーニングとは
病歴の聴取と身体診察、血算、Cr、電解質、肝機能検査、胸部レントゲン、乳房の診察とマンモグラフィー(50歳以上の女性)、子宮頸部のパパニコロー検査(性的活動のある18−70歳の女性)、PSA測定(40歳以上の男性)

◯baselineは同等か
同等。以下、ざっくりと。
年齢54歳、男性70%、白人90%、悪性腫瘍の既往5%、2/3が深部静脈血栓症、1/3が肺血栓塞栓症、両者の合併が1/8、ピル5%、エストロゲン2%

◯結果
地域:カナダ
登録期間:2008年10月〜2014年4月
観察期間:1年間
無作為化:その方法についての記載なし
盲検化:open-label(otcome評価者の盲検化についての記載なし)
必要症例数:862例(VTE発症時の悪性腫瘍診断率6%、1年後の悪性腫瘍診断率10%、CTによる診断3%(相対リスク低下75%)、power80%、αlevel0.05、プロトコール逸脱もしくはフォローアップ不能8%)
症例数:862例(限定的スクリーニング群423例、CT併用群431例、不適切な症例の登録8例)
追跡率:96.3%(限定的スクリーニング群96.5%、CT併用群96.1%)
解析:ITT解析(randomization後に不適切な症例8例を除外しているため、厳密にはmITT)
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result
(本文より引用)

◯感想/批判的吟味
VTEに合併した悪性腫瘍のスクリーニングには、ルーチンで腹部・骨盤のCTをとる必要がないという結果。診断をする際のCTで、骨盤から下肢まで撮ってしまうことも多いので、自分のプラクティスに当てはめると腹部まで撮る必要はないといったところでしょうか。ただ、この試験と異なり子宮頸部の細胞診はルーチンではやっていないため、考慮してもいいのかもしれません。

この研究では、どの悪性腫瘍も満遍なくといった感じですが、膵臓、脳、肺、卵巣でVTE合併が多いという報告はあるようです。