高齢者に対する抗血栓療法 ESC expert position paper

Antithrombotic therapy in the elderly: expert position paper of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis.
Eur Heart J. 2015 Dec 7;36(46):3238-49

《抗血小板薬》
アスピリン
アスピリンはCOX−1を非可逆的に阻害する。心血管イベントの一次予防や二次予防で多くの試験が行われているが、70歳以上のデータは不十分である。65歳未満でも、65歳以上でも一次予防と二次予防の血管イベントの減少率は同程度である(それぞれ13%、12%)。

高血圧症、高脂血症、糖尿病を有する60−85歳の患者を対象としたJapanese Primary Prevention Project (JPPP)では、アスピリン投与群では2.77%(95%CI:2.40-3.20)、アスピリン非投与群では2.96%(95%CI:2.58-3.40)で、アスピリンは心臓死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳梗塞の一次予防には無益であった(HR:0.94,95%CI:0.77–1.15)。心筋梗塞やTIAは半減したが、重大な頭蓋外出血が約2倍になったのだ。

欧米では、70歳以上で一次予防を目的としたAspirin in Reducing Events in the Elderly trialが進行中である。

二次予防でも、一次予防と同程度のリスク減少が認められている。年齢は、冠動脈イベントや虚血性脳梗塞の独立したリスク因子だが、出血性脳梗塞や頭蓋外出血のリスク因子でもある。消化管出血は、70歳以上になると著しく上昇するが、NSAIDsや胃粘膜障害の既往がある場合にはより顕著である。

低容量アスピリンの二次予防での使用は、アレルギー、活動性出血、頭蓋内出血がない限り推奨する。一次予防での使用は現在進行中の試験で明らかになるだろうが、アスピリンが大腸癌やその他の癌を減らすことも報告されており、それが長期成績に良い影響をもたらすかもしれない。

チエノピリジン:チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル
チエノピリジンはP2Y12受容体を不可逆的に阻害するプロドラックである。クロピドグレルは、アスピリンを使用できない安定した冠動脈疾患患者や、ACSや待機的PCI施行1年後までアスピリンと併用される(DAPT)。DAPT期間については議論があるが、DAPT試験では、30ヶ月のDAPTは12ヶ月のDAPTと比較し、虚血性イベントは有意に減少させたが、出血性イベントも有意に増加させた。75歳以上でも同様の結果であった。

TRITON−TIMI38試験では、PCIが施行されたACS患者のDAPTを、クロピドグレルとプラスグレルに割り付けて、平均14.5ヶ月フォローアップした。プラスグレルは心血管死・心筋梗塞・脳梗塞を有意に減少させた(HR:0.81、95%CI:0.73−0.90)。しかし、CABG関連大出血は有意に増加し(HR:1.32、95%CI:1.03−1.68)、特に75歳以上で顕著であった。また、脳梗塞やTIAの既往がある患者には、プラスグレルは有害である。

ESCのSTEMIガイドラインでは、75歳以上ではプラスグレルの使用(ローディング60mg、維持量10mg)は推奨していない。European Medicines Agency(EMA)とFood and Drug Administration(FDA)は、75歳以上では維持量を5mgにすることを推奨している。

NSTEMIでのプラスグレルのローディングは、診断時と冠動脈造影後では出血リスクは1.9倍になるため、冠動脈造影後にローディングすることを推奨している。これは75歳以上でも同様である。

《経口抗凝固薬》
ワルファリン
米国は年間約10万件の薬剤の有害事象での緊急入院があるが、その1/3はワルファリンが関係している。ランダム化試験から算出したワルファリンの大出血の年間発症率は、75歳未満で1.7−3.0%、75歳以上で4.2−5.2%であった。

高齢者では若年者より低容量で目標INRまで達し、上昇したINRが正常化するまでの時間が長い。よって、高齢の心房細動患者のワルファリンの使用は禁忌ではないが、容量は少なく、よりタイトなモニタリングが必要である。

直接トロンビン阻害薬:ダビガドラン
非弁膜症性心房細動患者を対象にしたダビガトランの第3相試験では、ダビガトラン150mgBIDはワルファリンと比較し有意に脳梗塞・全身性塞栓症を減少させた。また、重篤な頭蓋外出血に関しては、110mgBIDはワルファリンと比較し20%の相対リスク減少をもたらしたが、75歳以上でも同様の効果があるかは明らかではない。頭蓋内出血は年齢や容量にかかわらず減少させる。

150mgBIDでは、消化管出血や75歳以上の出血リスクは増加する。80%が腎代謝のため、CrCl<30ml/minでは禁忌だが、FDAは75mgBIDを提案している。欧州では110mgBIDの容量を、75−79歳では考慮、80歳以上では推奨としている。米国では110mgは発売されていない。

直接第Xa因子阻害薬:リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン
脳梗塞リスクの高い患者を対象(44%は75歳以上)としたROCKET−AF試験で、リバーロキサバンはワルファリンと比較し、脳梗塞・全身性塞栓症の予防に対する効果は非劣性であった。頭蓋内出血や致死的出血は低く、消化管出血が多かった。

ARISTOTLE試験には75歳以上の患者は13%含まれ、アピキサバンはワルファリンと比較し脳梗塞・全身性塞栓症を有意に減少させた。また、消化管出血の増加は認められなかった。

ENGAGE AF-TIMI48試験には75歳以上の患者が40%含まれ、脳梗塞・全身性塞栓症に対するエドキサバン60mgQDの効果はワルファリンに対し非劣性で、消化管出血はより多くみられた。30mgQDは虚血性脳梗塞を増加させたが、全死亡や消化管出血は低下させた。

《高齢者の出血の予防と対処》
期間と治療強度
ACSではDAPTは1年間行うことが推奨されている。出血はクロピドグレルよりプラスグレルやチカグレロルで多いが、75歳以上ではチカグレロルは死亡率を低下させる。

PCI時の穿刺部位
大腿動脈より橈骨動脈を推奨。

PPIの使用
ESCガイドラインではDAPT下では、消化管出血の予防目的のPPIの使用を推奨している。単剤の抗血栓薬を内服している高齢者でもPPIは有効かは不明である。クロピドグレルを内服している場合は、パントプラゾールなどCYPC19の阻害能の低い薬剤の使用が望ましい。

その他の対策
血圧コントロール、NSAIDsやステロイドの使用を避けるあるいは制限すること、多量の飲酒を避けること。

術前の冠動脈CTは、周術期の心血管イベントのリスクの低い患者の同定に役立つ Coronary CTA VISION試験

Prognostic capabilities of coronary computed tomographic angiography before non-cardiac surgery: prospective cohort study.
BMJ. 2015 Apr 22;350:h1907

《要約》
目標
非心臓手術前の冠動脈CTが周術期のリスクの予測に寄与するか検証することと、非心臓手術術後に心筋梗塞を発症した患者の術前の冠動脈形態を評価すること。

デザイン
前向きコホート研究

セッティング
8カ国、12センター

参加者
動脈硬化性疾患、または動脈硬化性疾患のリスクを有し、非心臓手術を行う患者955例。

介入
術前に冠動脈CTを行う。左主幹部病変でない限り臨床医は盲検化されている。結果は、normal, non-obstructive(50%未満の狭窄), obstructive(1枝または2枝に50%以上の狭窄), extensive obstructive(LAD近位部病変を含む2枝病変、3枝病変、左冠動脈主幹部病変)に分類される。

主要評価項目
術後30日以内の心血管死と非致死的心筋梗塞の複合エンドポイント。

結果
心血管イベント(主要評価項目)は74例(8%)に起きた。the Revised Cardiac Risk Index(RCRI)と冠動脈CTの両方を含めたモデルは、独立した予後予測因子だった(P=0.014:C index=0.66)。調整後のハザード比は、non-obstructiveで1.51(95%CI:0.45−5.10)、obstructiveで2.05(95%CI:0.62−6.74)、extensive obstructiveで3.76(95%CI:1.12−12.62)であった。1000例のサンプルにおいて冠動脈CTモデルはRCRI単独モデルよりも、心血管イベントを起こした77例の中で17例多くhigher riskに分類できていた(P<0.001)。しかし、冠動脈CTモデルでは心血管イベントを起こしていない923例のうち、RCRI単独モデルより98例多く不適切にhigher riskに分類していた(P<0.001)。周術期心筋梗塞を発症した患者は、31%(22/71例)がextensive obstructive disease、41%(29/71例)がobstructive disease、24%(17/71例)がnon-obstructive disease、4%(3/71例)がnormalであった。

結論
冠動脈CTは、周術期の心血管死や心筋梗塞のリスク評価の向上には有効だが、心血管イベントを起こさない患者のリスクを5倍以上過大評価してしまう。

◯論文のPICOはなにか
P:非心臓手術
I/C:術前の冠動脈CT
O:心血管死と非致死的心筋梗塞

inclusion criteria:45歳以上、待機的血管・整形・胸部・腹部手術、術前に冠動脈CTを行うに十分な時間があること、動脈硬化性疾患やうっ血性心不全の既往やリスクを持っていること
exclusion criteria:術前に侵襲的冠動脈造影が予定されている患者、冠動脈ステントが留置されている患者、CCr<35ml/min、造影剤アレルギー、妊婦、持続性心房細動または頻繁な期外収縮、HR≧70/分(single source scanners)またはHR≧90/分(dual source scanners)、体重136kg以上、評価不能なセグメントが4つ以上あること、CT施行後6ヶ月以内に手術が行われない場合、日帰り手術、左冠動脈主幹部病変の疑いがあり盲検化されず術前に血行再建が行われた場合

手順
冠動脈CTは盲検化された評価者が読影し、normal, non-obstructive(50%未満の狭窄), obstructive(1枝または2枝に50%以上の狭窄), extensive obstructive(LAD近位部病変を含む2枝病変、3枝病変、左冠動脈主幹部病変)に分類する。冠動脈バイパス術が施行された患者では、保護されていない冠動脈領域(グラフトとnative coronary arteryに50%以上の狭窄を有する)を評価した。トロポニンの測定は術後6時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後に行った。トロポニンの上昇が認められた場合、速やかに心電図検査を行った。

◯結果
観察期間:2008年7月から2013年10月
症例数:955例。1067例に冠動脈CTが施行され、112例が除外された(左冠動脈主幹部病変疑い:14例、非心臓手術中止:5例、6ヶ月以内に手術が施行されなかった:71例、術前の血行再建が施行された:33例、画像の評価不能・日帰り手術・非心臓手術と同時に血行再建を行った:33例)。
characteristics
result

◯感想/批判的吟味
・心筋梗塞の定義は、universal definition(トロポニンの上昇と以下のうち1つ以上を満たすもの。虚血症状、心電図の虚血性変化、心筋梗塞を示唆するイメージングの異常)で、トロポニンの測定する経時的に測定することになっている。

・RCRIで評価された心血管イベントの発生率は、以前の報告(Circlation1999:1043−1049)より高い。

・冠動脈CTは、よりリスクが低い患者の同定には役立つが、陽性的中率は下がる。

・冠動脈CTやRCRIにより心血管イベントのリスクが高いと判断された患者に、どのタイミングでどのような介入をすべきかはわからない。

非心臓手術での血管イベントの発生はRCRIの約6倍 Vision pilot試験

An international prospective cohort study evaluating major vascular complications among patients undergoing noncardiac surgery: the VISION Pilot Study.
Open Med. 2011;5(4):e193-200.

《要約》
目標
我々の目標は、非心臓手術を受ける患者で、1)大規模な国際的コホート試験を行えるか決定すること、2)周術期の主要な血管イベントの発生率を推定すること、3)観察されるイベント発生率とRevised Cardiac Risk Index(RCRI)の比較、4)トロポニンを測定しなければ見逃される可能性がある無症候性心筋梗塞の割合を推定すること、である。

デザイン
国際的前向きコホートパイロット試験

参加者
45歳以上の非心臓手術を受ける患者

方法
術後6時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後にトロポニンTを測定する。主要評価項目は、術後30日後までの主要な血管イベント(血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的心停止、非致死的脳梗塞)である。周術期心筋梗塞の定義は、トロポニンTの上昇と以下の項目のうち少なくともひとつを満たすものである。虚血症状、Q波の出現、心電図の虚血性変化、冠動脈血行再建、心筋梗塞の画像的な証拠、解剖による心筋梗塞所見。

結果
カナダ、中国、イタリア、コロンビア、ブラジルの5つの病院で432例を登録した。術後30日間で、6.3%(99%CI:3.9−10.0)で主要な血管イベントが起こった。10例が血管死、16例が非致死的心筋梗塞、1例が非致死的脳梗塞であった。観察されたイベント発生率はRCRIから予想されるものの6倍であった。18例の心筋梗塞のうち、12例で無症候であった。

結論
周術期の血管イベントはよくあることで、RCRIはリスクを過小評価し、トロポニンTのモニタリングにより心筋梗塞の見逃しを防ぐことができる。大規模な国際的前向きコホート試験が必要である。

◯論文のPICOはなにか
P:非心臓手術
I/C:経時的なトロポニンTの測定
O:主要な血管イベント(血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的心停止、非致死的脳梗塞)

inclusion criteria:45歳以上、全身または局所麻酔(神経叢ブロック、腰椎麻酔、硬膜外麻酔)を要する、入院を要する、待機的・準緊急・緊急手術

手順
トロポニンTを術後6時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後に測定する。トロポニンTは0.04μg/L以上を有意な上昇とする。術後12−24時間の間に患者の登録を行う。トロポニンTの上昇が認められた場合、12誘導心電図を施行する。トロポニンTが上昇したにも関わらず、無症候で心電図変化もなく周術期心筋梗塞の定義を満たさない場合には、心エコーを行う。

◯結果
登録期間:2005年3月から2009年5月
症例数:432例
追跡率:99.3%
characteristics
血管手術は2%で、1/3が低リスク手術。その他が中等度リスクの手術である。

result
(tableはすべて本文から引用)
RCRIと比較し、周術期の血管イベントは6倍(99%CI:3.5−9.7)と高い。

◯感想/批判的吟味
心筋梗塞の2/3が無症候であるため、日常的にこのような症例は見逃されている可能性がある。わずかなトロポニンの上昇で周術期心筋梗塞を拾い上げると、これだけ多いということか。ただ、このわずなかトロポニン上昇により拾い上げられた心筋梗塞のすべてが、転移不良というわけではなく、どれくらい臨床的に意味があるかより大規模な試験での検証が待たれる。

ピモベンダンの運動能改善効果 PICO試験

Effect of pimobendan on exercise capacity in patients with heart failure: main results from the Pimobendan in Congestive Heart Failure (PICO) trial.
Heart. 1996 Sep;76(3):223-31.

《要約》
背景
慢性心不全患者において、ピモベンダン2.5mgまたは5mg/日を内服することの運動能に対する効果を検証する。

方法
欧州6カ国の循環器外来で行われ、従来の治療に加えピモベンダンを加える無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験である。最短フォローアップ期間は24週である。ACE阻害薬や利尿薬は内服している、運動能の低下した有症候性の心不全(EF<45%)317例を対象とした。 結果
2.5mg・5mgともにプラセボと比較し、24週後の運動時間を有意に6%増加させた。ピモベンダン群で63%が、プラセボ群で59%が少なくとも登録時と同程度の運動能であった(P=0.5)。酸素消費量とQOLに有意差はなかった。ピモベンダンには良好な忍容性があり、催不整脈性は認められなかった。ピモベンダン群ではプラセボ群に対する死亡のハザード比は1.8(95%CI:0.9−3.5)であった。

結論
ピモベンダンは従来の治療を行っている慢性心不全患者の運動能を改善する。この治療のリスクとベネフィットのバランスを確立する必要がある。

◯この論文のPICOはなにか
P:EF<45%でNYHAⅡ-Ⅲの慢性心不全 I:ピモベンダン2.5mgまたは5mg/日の内服(ピモベンダン群) C:プラセボの内服(プラセボ群) O:自転車エルゴメータを用いた運動時間(4、12、24週で測定) inclusion criteria:18歳以上、臨床的に安定していること、 exclusion criteria:狭窄症、閉塞性心疾患、感染性心疾患、狭心症による運動能制限、心移植待ち、3ヶ月以内の失神や心停止の既往、ICD移植術後、腎疾患・肝疾患、循環動態に影響のある肺塞栓症、重症の肺疾患など ◯baselineは同等か 群間差はない。 β遮断薬の使用は認められていない(この試験がおこなわれているときは、まだ標準的治療ではなかった様)。 characteristics

◯結果
期間は1993年3月から1994年6月。
92%の患者で運動能の評価を行った。
4,12,24週後の運動時間の増加は、ピモベンダン2.5mg群で13,27,29秒、ピモベンダン5mg群で19,17,28秒であった。
死亡は、有意差はないがプラセボと比較しピモベンダン群で増加する傾向にある。
result

◯感想/批判的吟味
・無作為化、二重盲検、プラセボ対象試験
・ITT解析
・outcome評価者の盲検化については記載がないが、運動時間という客観的なendpointを用いている。

baselineの運動時間が7分程度。24ヶ月の時点でピモベンダンによる運動時間の増加が30秒程度。これを臨床的に意味のある差ととるかどうかは主治医と患者次第ではあるが、死亡が増加する傾向にあることは認識しておくべき。

ピモベンダンは心不全増悪による入院を抑制する EPOCH試験

Effects of pimobendan on adverse cardiac events and physical activities in patients with mild to moderate chronic heart failure: the effects of pimobendan on chronic heart failure study (EPOCH study).
Circ J. 2002 Feb;66(2):149-57.

《要約》
慢性心不全に対する長期のピモベンダンの効果は確立されていない。EF<45%で至適薬物療法を行っているいの関わらずNYHAⅡ−Ⅲの安定した慢性心不全306例を、二重盲検化し52週までフォローアップした。52週目までで有害事象(primary endpontの発生)は、ピモベンダン群で19例(15.9%)、プラセボ群で33例(26.3%)であった。プラセボ群に対するピモベンダン群の累積的な心臓の有害事象は、45%低かった(ハザード比の95%CI:0.31−0.97)。死亡と心臓が原因の入院はピモベンダン群で12例(10.1%)、プラセボ群で19例(15.3%)であったが、有意差はなかった。ピモベンダン群でbaselineでのSpecific Activity Scale score(SASスコア)が4.39±0.12、52週時で4.68±0.15と増加していた(P<0.05)。長期のピモベンダンの使用は、軽度から中等度の慢性心不全患者の罹患率を低下させ、運動能を改善させる。

◯この論文のPICOはなにか
P:EF<45%でNYHAⅡ-Ⅲの慢性心不全
I:ピモベンダンの内服(ピモンベンダン群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:心不全死、心臓突然死、不整脈死、心不全増悪による入院の複合エンドポイント
(secondary endpointは、SAS質問表による1Mets以上の運動耐用能上昇、心不全増悪による薬剤の追加・変更、非心臓死)

inclusion criteria:20−85歳、臨床的に安定していること、至適薬物療法でも症状が残存していること
exclusion criteria:重症の心室性または心房性不整脈、高度房室ブロック、狭窄症、閉塞性または感染性心疾患、3ヶ月以内の心筋梗塞の既往、重症の脳血管疾患・呼吸器疾患・肝疾患・腎疾患・血液疾患、妊婦、授乳婦

◯baselineは同等か
baselineの群間差についての記載なし。
ただ、ぱっと見ではほとんど差はなさそう。
baseline

◯結果
登録は1995年12月から1998年9月まで。
ピモベンダンは、2.5mg分2で開始し忍容性があれば5mg分2に増量した。

ピモベンダン群 vs プラセボ群(95%CI)
primary endpoint:10.1% vs 15.3%(0.30−1.29)
primary endpoint + secondary endpoint:15.9% vs 26.3%(0.31-0.97)

result
primary endpointは、心臓死に差はなく、心不全入院で差がついている。

◯感想/批判的吟味
・二重盲検無作為化試験
・追跡率98.9%
・ITT解析
・primary endpointでは有意差なし
・必要症例数をprimary endpointとsecondary endpointを合わせて算出されている。

primary endpointで有意差がないため、必要症例数に達しているか確認する必要があるが、事前に定められた症例数はprimary endpointとsecondary endpointを合わせて算出されており、その症例数は満たしている(プラセボ群のrimary endpointとsecondary endpointの発生が27−29%、ハザード比0.4−0.5、αlevel5%、power80%)。これは症例数の算出方法として、あまり見かけない方法だと思う。

左心耳閉鎖術/切除術の脳梗塞予防効果

Left Atrial Appendage Closure Reduces the Incidence of Postoperative Cerebrovascular Accident in Patients Undergoing Cardiac Surgery.
Circ J. 2015 Nov 25;79(12):2591-7

《要約》
背景
脳血管イベントは、心臓手術の術後に起こる重大な有害事象であり、それは心房細動がリスク因子であると考えられている。我々は開心術時に、塞栓源と考えられる左心耳の閉鎖術や切除術を行っている。

方法・結果
2009年から2013年に心臓手術を施行した連続1831例の前向き観察研究を行った。左心耳閉鎖術/切除術の有無で、術後6ヶ月以内の脳血管イベントの発生率を比較した。さらに、CHA2DS2−VAScスコアによって層別化した(low risk:<2, high risk:≧2)。合計369例(20.2%)で左心耳閉鎖術/切除術が施行された。それらの患者は左心耳閉鎖術/切除術が行われていない患者より、術前の左房径が大きく、術後の心房細動の発生率が高かったが(45.4mm vs 41.1mm, 49.3% vs 39.1%, いずれもP<0.001)、脳血管イベントの発生率に群間差はなかった(3.5% vs 3.0%, P=0.612)。CHA2DS2−VASc≧2の患者群での多変量解析では、左心耳閉鎖術/切除術と脳血管イベントの関連は認めなかったが、CHA2DS2−VASc<2の患者群では、左心耳閉鎖術/切除術は脳血管イベントの唯一の独立した負の因子であった。

結論
CHA2Ds2−VAScスコア<2であれば、左心耳閉鎖術/切除術は術後早期の脳血管イベントを減少させる。

◯論文のPICOはなにか
P:心臓手術(CABG、弁膜症手術)を行う患者
I:左心耳閉鎖術/切除術あり
C:左心耳閉鎖術/切除術なし
O:術後6ヶ月以内の脳血管イベント(虚血性または出血性脳梗塞、TIA)

◯結果
2009年1月から2013年10月までに心臓手術が施行された連続1831症例。
369/1831例(20.2%)で左心耳閉鎖術/切除術が施行された。
753/1831例(41.1%)で術後に心房細動を認めた。
57/1831例(3.1%)で脳血管イベントの発生があった。

result
(本文より引用)

術後の心房細動の有無に関わらず、CHA2DS2−VAScスコア<2の患者群では左心耳閉鎖術/切除術が独立した負の因子である。

◯感想
CHA2DS2−VAScスコアが低い群、つまり動脈硬化因子をあまり持っていない群では、脳梗塞の塞栓源は主に左心耳血栓と考えられ、左心耳閉鎖術/切除術が効果を示すというのはわかる。しかし、CHA2DS2−VAScスコアが高い群では、左心耳閉鎖術/切除術によってむしろ脳梗塞が増える傾向にある。左心耳閉鎖術/切除術を行うか選択バイアスが入っているためとあるが、よくわからない。

NOACsに関連した頭蓋内出血は死亡率が高い

Early Clinical and Radiological Course, Management, and Outcome of Intracerebral Hemorrhage Related to New Oral Anticoagulants.
JAMA Neurol. 2015 Dec 14:1-10

《要約》
背景
頭蓋内出血は抗凝固療法を受けている患者に起こる最も重大な有害事象である。新規経口抗凝固薬(NOACs)の頭蓋内出血のデータはほとんどない。NOACsに関連した頭蓋内出血の早期の臨床像やX線画像の経過、急性期の治療とアウトカムについて調べた。

方法
前向き、医師主導、多施設、観察研究である。すべての診断と、プロトロンビン複合体製剤などの凝固因子を投与するかなどの治療方針は、主治医が決定する。2012年2月1日から2014年12月31日に、ドイツの38の脳梗塞ユニットで行われた。非外傷性のNOACsに関連した頭蓋内出血の連続61症例が対象で、うち45例(74%)が血腫増大解析に含められた。3ヶ月後の機能的アウトカム、好ましくないアウトカムに関連した要因(modified Rankin scale score;mRSスコア)、新規の脳室穿破やmodified Graeb scoreの増加、血腫増大(相対的な33%以上の血腫増大、もしくは6ml以上の血腫増大)、抗凝固薬のリバースなどを評価した。

結果
NOACsに関連した頭蓋内出血のうち41%(25/61例)が女性、平均年齢76.1歳、NIHSSの中央値は10、baselineの平均出血量は23.7mlであった。画像のフォローアップがなされた症例のうち、38%(17/45例)で血腫増大を認めた。3ヶ月の時点での全体の死亡率は28%(17/60例、1例はデータ喪失)で、生存者のうち65%(28/43例)は好ましくないアウトカムだった(mRSスコア:3-6)。全体で57%(35/61例)がプロトロンビン複合製剤の投与を受けたが、血腫増大の頻度(43% vs 29%)やmodified Rankin Scale score:3-6の発生(OR:1.20)に、統計学的有意差はなかった。

結論
NOACsに関連した頭蓋内出血は、死亡率が高く、好ましくないアウトカム(mRSスコア:3−6)や血腫増大の頻度が高い。特異的中和剤の投与がNOACsに関連した頭蓋内出血の予後を改善できるか検証するには、より大きな前向き試験が必要である。

◯論文のPICOはなにか
P:NOACS内服中の頭蓋内出血
O:血腫拡大、脳室穿破、抗凝固療薬のリバース

inclusion criteria:18歳以上、頭蓋内出血発症時でのNOACs(アピキサバン、ダビトラン、リバーロキサバン)の内服、

exclusion criteria:mRSスコアについてのexclusion criteriaはない

◯結果
baseline
年齢76歳、アピキサバン8%、ダビガトラン12%、リバーロキサバン80%、アスピリン7%、クロピドグレル2%、アスピリン+クロピドグレル2%、CHA2DS2−VASc:5点、HAS−BLED:2点、GFR<60ml/min:29%、mRSスコア(発症前:2、発症時:5)、NIHSS:10 comparison
(本文より引用)

◯感想/批判的吟味
NOACsはVKAと比較して、頭蓋内出血の出血量や血腫増大は少ないとの報告があるが、この観察研究では以前に報告されているVKAに関連した頭蓋内出血と、出血量・出血部位・脳室穿破の発生率に差はなかった。これは、VKAが投与される患者とNOACsが選択される患者と同一ではないので、その影響もあるだろう(出血のリスクが高いからNOACsが選択された可能性がある)。

NOACsだからといって、必ずしも出血が小さく済むというわけではないということだろう。

修正バルサルバ法で上室性頻拍を止める REVERT試験

Postural modification to the standard Valsalva manoeuvre for emergency treatment of supraventricular tachycardias (REVERT): a randomised controlled trial.
Lancet. 2015 Oct 31;386(10005):1747-53.

《要約》
背景
バルサルバ法は上室性頻拍に対し国際的に推奨された治療であるが、アデノシンの投与が必要になることもある。バルサルバ法の際の体位変換が有効かどうか検証した。

方法
イギリスの救急部門で、無作為化並行試験を行った。心房細動/心房粗動を除く上室性頻拍の患者を修正バルサルバ法と標準的バルサルバ法に1:1に無作為に割り付けた。いずれの群でも40mmHg、15秒間を標準的な圧とした。無作為化および層別化は中央で独立して行われた。患者と治療介入者は盲検化していない。主要評価項目は1分以内の洞調律化であり、盲検化された者がそれを確認する。この試験はCurrent Controlled Trialsに登録されている。

結果
2013年1月11日から2014年12月29日まで、433例を登録した。2回目の登録があったため、5例を除外し、各群214例がITT解析に含められた。標準的バルサルバ法では37/214例(17%)が、修正バルサルバ法では93/214例(43%)が洞調律に復帰した(調整後OR3.7[95%CI:2.3−5.8])。重大な有害事象はなかった。

結論
修正バルサルバ法は上室性頻拍に対する第一選択の治療として考慮すべきである。

修正バルサルバ法については、百聞は一見にしかず。
LancetのHPでご確認ください。

◯この論文のPICOはなにか
P:上室性頻拍
I:修正バルサルバ法
C:標準的バルサルバ法
O:1分以内の洞調律化

inclusion criteria:18歳以上、上室性頻拍(regular、QRS<120msec)
exclusion criteria:収縮期血圧90mmHg未満、カルディオバージョンが必要な患者、心房細動、心房粗動、大動脈弁狭窄症・最近の心筋梗塞、緑内障、網膜症などバルサルバ法が行えない患者、バルサルバ法ができない患者、横たえられない患者、足を上げることができない患者、妊娠後期、以前この試験に参加している患者

◯baselineは同等か
同等。以下、ざっくりと。
年齢55歳、半分はSVTの既往がある人、アブレーション7%、弁膜症2%、COPD3%、SpO2:98%。

◯結果
result

◯感想/批判的吟味
・open-labelだが、outcome評価者は盲検化されている。
・ITT解析

修正バルサルバ法は、従来のバルサルバ法に比べて面倒な方法でもないし、試す価値はある。息をこらえてもらう方法だと、きちんとバルサルバ法ができているかわからなかったけど、ビデオにあるようにシリンジを用いるとしっかりと胸腔内圧を高められるので、この方法も取り入れたい。

POISE-2試験 非心臓手術におけるアスピリン

Aspirin in patients undergoing noncardiac surgery.
N Engl J Med. 2014 Apr 17;370(16):1494-503

《要約》
背景
アスピリンを内服している場合でもそうでない場合でも、非心臓手術の周術期にアスピリンを内服するかどうかは一定しない。

方法
2×2要因デザインで、非心臓手術を行う予定の血管合併症のリスクを有する症例10010例を、アスピリンとプラセボ、クロニジンとプラセボに無作為に割り付けた。試験以前からアスピリンを内服しているかで層別化した(導入群5628例、継続例4382例)。導入群では、手術前にアスピリン200mgもしくはプラセボをローディングし、それを30日間継続する(アスピリン:100mg/日)。継続群では7日間継続し、それ以降はもとの用法用量に戻す。主要評価項目は、死亡と非致死的心筋梗塞である。

結果
主要評価項目は、アスピリン群で351/4998例(7.0%)、プラセボ群で355/5012例(7.1%)であった(HR:0.99、95%CI:0.86−1.15)。大出血はアスピリン群で多く認めた(4.6% vs 3.8%, HR1.23, 95%CI:1.01-1.49)。

結論
術前のアスピリンの投与は、死亡と非致死的心筋梗塞を減少させず、大出血を増加させる。

◯この論文のPICOはなにか
P:非心臓手術の術前の患者
I:アスピリンの内服(アスピリン群)
C:プラセボの内服(プラセボ群)
O:無作為化から30日間の死亡と非致死的心筋梗塞の複合エンドポイント

inclusion/exclusion criteriaは本文に記載なし。

手順
2×2要因デザイン。アスピリン+クロニジン、アスピリンプラセボ+クロニジン、アスピリン+クロニジンプラセボ、アスピリンプラセボ+クロニジンプラセボの4群に、1:1:1:1に割り付け。もともとアスピリンを内服していない導入群では、200mgをローディングし、100mg/日で30日間継続する。もともとアスピリンを内服している継続群では、100mg/日を7日間継続し、それ以降はもとの内服量に戻す。

◯baselineは同等か
characteristics1
characteristics2

◯結果
登録期間:2010年7月-2013年12月
result
(tableはすべて本文から引用)

◯感想/批判的吟味
・computerized internet systemによりランダム化。
・バイエル、ベーリンガーインゲルハイムがスポンサーだが、解析には加わっていない。
・primary endpointで有意差がついていないが、事前に定められた症例数(10000例)には達している(power84%、αlevel0.05、アスピリン群のHR0.75、プラセボ群のprimary endpointの発生6.1%)。
・ITT解析
・追跡率99.9%

10000例で有意差がつかないのであれば、周術期にアスピリンを内服させることの意義はないと考えていいだろう。AHAのガイドラインでも、冠動脈にステント留置を行っていない患者の非心臓手術でのアスピリンの導入や継続はclassⅢとなっている。

敗血症誘発性心筋症(sepsis−induced cardiomyopathy)

A review of sepsis-induced cardiomyopathy.
J Intensive Care. 2015 Nov 11;3:48

敗血症誘発性心筋症は左室拡大、左室駆出率低下、7−10日で回復することが特徴。治療は、敗血症誘発性心筋症を伴なわない敗血症と同じ。

敗血症の死亡率とhyperkineticには相関がある。敗血症誘発性心筋症では左室壁運動はhypokineticかnormokineticなので、予後がいいかもしれない。より大きな試験が検証が必要である。

敗血症誘発性心筋症はたこつぼ型心筋症とは違う病態である。たこつぼ型心筋症では、左室基部は過収縮し、中間部から心尖部はakinesis・dyskinesisとなりballooningをきたすのが典型的である。敗血症誘発性心筋症はびまん性の左室壁運動異常であり、たこつぼ型心筋症とは左室壁運動異常のパターンが異なる。また、たこつぼ型心筋症は様々な基礎疾患で起こり病態生理学的に特定の病態によるものではないと考えられ、それも敗血症誘発性心筋症と異なる。

敗血症誘発性心筋症の診断基準はない。

BNPやトロポニンの上昇がみられるが、これは特異的なものではない。敗血症の43−85%にトロポニンの上昇がみられるが、トロポニンの上昇と死亡率とに相関があると報告したメタ解析がある。

敗血症誘発性心筋症の発症には、エンドトキシンやサイトカインなどが関与している。

ProCESS試験、ARISE試験、ProMiSe試験ではearly goal-directed therapyがアウトカムの改善に結びつかなかったことを報告している。

敗血症性ショックに関して。バソプレッシはノルアドレナリンと比較し90日死亡率を改善しなかった。低容量でノルアドレナリンに併用するのはよいが、単剤投与は推奨されない。ドブタミンは敗血症性ショックの死亡率を増加させる。β遮断薬は死亡率の改善につながるかもしれない。レボシメンダンはβ受容体を介さず心筋収縮力を増加させるため、ドブタミンと異なり死亡率を低下させるかもしれない。レボシメンダンやECMOが敗血症誘発性心筋症の生存率を改善するかどうかは、さらなる検証が必要。

◯感想
敗血症誘発性心筋症がたこつぼ型心筋症と異なる点として2つあげられている。左室の動き、そして基礎の病態が違うこと。左室の壁運動に関しては、経胸壁心エコーでは捉えられないこともある。左室造影で典型的なたこつぼ型心筋症と診断しても、心エコーでは判断できないことも経験する。そして、たこつぼ型心筋症も典型的なたこつぼの形態をしめすものだけではない。たこつぼ型心筋症は様々な基礎疾患を背景に発症するので、敗血症もそのひとつとしてとらえてもいいのではないかと思ってしまう。

あと、敗血症誘発性心筋症ではどう心電図が変化するかも気になるところ。