カテゴリー別アーカイブ: 虚血性心疾患

心血管疾患のない心房細動で、ワルファリンの心筋梗塞・脳梗塞予防効果はアスピリンに勝る

Antithrombotic Therapy and First Myocardial Infarction in Patients With Atrial Fibrillation.
Am Coll Cardiol. 2017;69(24):2901-2909

◇この論文のPECOは?
P:心血管疾患の既往のない心房細動
E/C:ワルファリンのみ、アスピリンのみ、ワルファリン+アスピリンの併用の3群
O:心筋梗塞

secondary endpointは脳梗塞と出血。

<デザイン、セッティング>
・デンマークのレジストリーデータ
・71959例
・観察期間:4.1年(中央値)
・ポアソン回帰モデル

<患者背景>

(本文から引用)
ASA+VKA群で、心不全、高血圧、糖尿病などの冠危険因子が多い。
ASA単独群は、年齢が高く出血を危惧され、アスピリンを処方されているのか?

<結果>

(本文から引用)
脳梗塞はアスピリンよりワルファリンがいいに決まっているが、出血に関してはアスピリンとワルファリンで有意差がない。心筋梗塞はアスピリンよりワルファリンの方が、予防効果が高い。

アスピリンとワルファリンの併用は、アスピリン単剤より心筋梗塞、脳梗塞を抑えるが、出血は逆に増える。

◇感想
ワルファリンも心筋梗塞予防効果があるが、その効果がアスピリンより高く出血も増えていないのは意外な結果だった。デンマークのレジストリーデータなので、フォローアップ率も極めて高く、まさにリアルワールドのデータ。

PT-INRの値やTTRもわかればよかったけど、この研究では調べられていないのは残念。この比較にDOACが入ってくるとどうなるか気もなるところです。

【総説】急性心筋梗塞 NEJM

Acute Myocardial Infarction
N Engl J Med 2017; 376:2053-2064

【定義】
・急性心筋梗塞には6つのタイプがある。
type1:アテローム血栓症によるもの
type2:需要と供給のミスマッチ
type3:心筋梗塞による突然死(バイオマーカーやECGなし)
type4a:PCIによるもの
type4b:ステント血栓症
type5:CABGによるもの

【疫学】
・米国ではここ30−40年で減少傾向にあるが、それでもAMIは55万人/年。低所得、中所得の国では増えている。

【病理】
・急性心筋梗塞は、不安定で脂質に富んだ動脈硬化性プラークの破裂や侵食によって起こる。

【初期評価】
・ACSが疑われる場合、来院から10分以内にECGをとり、トロポニン検査を行うこと。

・トロポニンは心筋炎などの心筋障害、心不全、腎不全、呼吸不全、脳梗塞、脳出血、敗血症性ショック、心構造疾患でも上昇する。トロポニンに加えて、CK-MBやミオグロビンを測ることは推奨されていない。

・リスク評価にはTIMIモデル、GRACEモデルが有効。

【初期治療】
・より迅速なprimaryPCIがアウトカムを改善する。

・院外心停止(初期波形VF)に対し、プレホスピタルで低体温療法を開始した2つのRCTがある。病着時の体温は有意に下がっていたが、病着後に低体温療法を開始する場合と比べ退院時のアウトカムは改善しなかった。

・酸素投与はルーチンでされることが多いが、SpO2<90%でない限り酸素投与はすすめられない。酸素投与は、SpO2<90%、呼吸不全など低酸素血症のリスクがある場合のみ勧める。現在、AMI6650例を対象として酸素投与の影響を検証するDETO2X-AMI試験が進行中である。

【治療戦略】

・βblockerは、ショック・LOS・心不全などがなければ、24時間以内に開始。
・アトルバスタチン40−80mg、ロスバスタチン20−40mg(注:日本ではアトルバスタチン20mg、ロスバスタチン20mgが最大量)の高容量のスタチンは、コレステロール低下作用と多面的効果あり。
・ACE阻害薬/ARBは、特にLAD、左室機能不全、心不全への導入が望ましく、24時間以内に開始を。
・OMIがあればアルドステロン拮抗薬を。


(日本では例外的な場所を除いて、120分以内にカテができるところにたどりつけるので、STEMIであればPCI。bivalirudinは使えず、ticagrelorも出番がないので、ASA+クロピドグレルorプラスグレルのDAPT。PCI前後は未分画ヘパリンを使用。)

・ステントは、ベアメタルステントよりコバルトクロム・エベロリムス溶出性ステント(Xience)が最も安全性・有効性(心臓死、AMI、ステント血栓症の減少)が高い。

・非責任病変に対するPCIは議論が分かれる。AHA/ACCのガイドラインでは、非責任病変へのPCI(primaryPCIと同時に、またはstagedPCIで)はclassⅡb。現在、非責任病変に対するPCIのタイミング(primaryPCIと同時かstagedか)を検証するための大規模RCT(COMPLETE試験)が進行中である。

・血栓吸引は、TOTAL試験で180日時点の心血管死、心筋梗塞、心不全を減少させず、30日時点の脳梗塞をわずかではあるが有意に増加させた(0.7%vs0.3%)。AHA/ACCガイドラインでは、ルーチンでの血栓吸引は推奨されていない。

・PCIのアクセスは、大腿動脈より橈骨動脈が出血が少ない。ただ、メタ解析では手技時間はわずかに(2分)増加することが示されている。

【抗血栓療法】
・腸溶性でないアスピリン(=バイアスピリンはダメ)162−325mgの投与。

・維持量は81−325mg。ただし、チカグレロル(ブリリンタ)とプラスグレル(エフィエント)を併用するときは、アスピリンは81mgがよい(注:日本では、ブリリンタはプラビックスとエフィエント(とパナルジン)が使えない時だけ使用可、なので出番なし)。クロピドグレル(プラビックス)を併用するときの至適容量は不明。

・PCI時に速やかにP2Y12阻害薬(プラビックス、エフィエント、ブリリンタ)を投与し、少なくとも1年間は継続すること。

・エフィエントとブリリンタのPCI前のローディングは、効果がなかった。

・プラビックスの効果はCYP2C19に依存する。

・ワルファリンとDAPTの3剤併用は、心房細動、機械弁、静脈血栓塞栓症の際に推奨されるが、出血リスクは増加するため極力短い方がいい。WOEST試験では、抗凝固薬+プラビックスが3剤併用より塞栓リスクを増加させず、出血リスクを低下させた(ハザード比:0.36、95%CI:0.26−0.50)。

・PIONEER AF-PCI試験では、ワーファリンとDAPTの3剤併用、リバロキサバン(イグザレルト)低容量とプラビックスの2剤併用、イグザレルト超低容量(2.5mg)とDAPTの3剤併用の3群に分け、有効性と安全性が検証された。どの群でも心血管死、心筋梗塞、脳梗塞に差はなかったが、出血リスクは、イグザレルトの低容量群と超低容量群で有意に減少した。

Deferred Stenting (二期的PCI)は梗塞サイズ、EFを改善しない

Myocardial Damage in Patients With Deferred Stenting After STEMI: A DANAMI-3-DEFER Substudy.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(23):2794-2804.

primaryPCIでステント留置を避けた場合、冠血流の改善や心筋障害が減少することが報告されている。

DAMANI-3-DEFER試験は、primaryPCIの際に通常通りステントを留置する群と、急性期はPOBAのみでステント留置を行わず、数日後に改めてステントを留置する群に分け、臨床的なアウトカムが改善するか検証したRCTである。しかし、42ヶ月後の全死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、計画されていない責任血管の再血行再建は、両群間で統計学的な差はなかった。

これはそのRCTのサブスタディである。

◇この論文のPECOは?
P:STEMI
E:primaryPCIの際にPOBAまで行い、48時間後にステントを留置する(Deferred Stenting)
C:primaryPCIの際にステントを留置する(Conventional Stenting)
O:心臓MRI(CMR)で測定した硬塞サイズ

<デザイン、セッティング>
・前向き(RCTのサブスタディ)
・510例 (もとの試験は1215例)
・急性期と90日後にCMRを撮像
・交絡因子の調整:COX比例ハザードモデル

CMRは退院前と、90日後に撮像して、急性と最終の硬塞サイズ、心筋サルベージインデックス(梗塞心筋量/還流域の心筋量)を調べる。

<患者背景>

(本文から引用)
両群間で差なし。症状からPCIまでの時間にも差はない。


(本文から引用)
Deferred Stentingの方が、ステント長が短い。最終的なTIMI分類に有意差はないが、Deferred StentingでもTIMIゼロ、TIMI1がある。

<結果>

(本文から引用)
急性期のCMRでEFのみ有意差がついているが、90日後のCMRでは硬塞サイズ、心筋サルベージインデックス、EF、LVEDVに差はない。


(本文から引用)
ステント長が24mmより長くなると、Defer betterになるが、そもそもprimary endpointに差が付いておらず、post hoc解析であり、信頼区間も広い。

◇感想
DANAMI-3-DEFER試験でDeferred Stentingによる臨床的アウトカムは認められず、心臓MRIでも梗塞サイズの減少やEFの改善などは認められなかった。

post hoc解析ではステント長が長くなると、Deferred Stentingに良い傾向があった。確かに、ステント長はslow flow/no-reflowの予測因子と言われているため、過去の報告に矛盾はしない。まあそうは言っても、二期的にPCIをやるのは医療経済的にもよろしくないので、十分な血管内腔が確保されていて解離がないなら、そのままステントを入れないって選択肢の方が良さそうだけど。

ST上昇型心筋梗塞 予後の性差

Infarct size, left ventricular function, and prognosis in women compared to men after primary percutaneous coronary intervention in ST-segment elevation myocardial infarction: results from an individual patient-level pooled analysis of 10 randomized trials.
Eur Heart J. 2017 Jun 1;38(21):1656-1663.

◇論文のPICOはなにか
P:primaryPCIが行われたSTEMI患者
E/C:男性と女性
O:全死亡と心不全入院

primary PCIが行われたSTEMI患者を対象とし、1ヶ月以内にMRIもしくはSPECT(テクネシウム)で梗塞サイズが評価された10のRCTを解析に組み入れた。すべての患者は6ヶ月以上フォローされており、死亡や心不全入院について評価されている。

◇患者背景

(本文から引用)
女性の方が、年齢が高い。糖尿病が多い。責任病変の部位や治療前のTIMI分類に差はないけど、最終造影がTIMI3の割合が若干少ない。発症から再還流までの時間が長い。


(本文から引用)
女性の方が、最終造影がTIMI3の割合が少なく、発症から再還流までの時間が長いので、硬塞サイズが大きくなりそうだけど、そうでもない。

◇結果
フォローアップ期間は352日(中央値)。


(本文から引用)
年齢、糖尿病などの併存疾患などで調整しても、女性のハザード比は約2倍。


(本文から引用)
女性では、心不全入院も死亡も増える。心筋梗塞の再発に差はない。

◇感想
女性だと、再還流までの時間が長くなる傾向があるが、硬塞サイズに性差はなかった。しかし、退院後1年間で、心不全入院や死亡は男性の2倍多い。女性の方がHFpEFが多いということだろう。

心筋梗塞の再発には性差はないので、死亡は心不全死が増えていると考えられる。もしかしたら不整脈も増えるのかもしれない。

心不全のない心筋梗塞 1年後の生存率とβ遮断薬

β-Blockers and Mortality After Acute Myocardial Infarction in Patients Without Heart Failure or Ventricular Dysfunction
J Am Coll Cardiol. 2017;69(22):2710-2720.

◇この論文のPECOは?
P:AMI(STEMIとNSTEMI)
E/C:β遮断薬内服の有無
O:1年後の死亡率

<デザイン、セッティング>
・イギリス
・2007年から2013年のデータ
・前向きコホート研究
・179810例
・院内死亡、すでにβblockerが処方されている、心不全、LVEF<30%、ループ利尿薬の使用、100歳以上は除外
・観察期間:1年
・プロペンシティスコアマッチ

<患者背景>


(本文から引用)
トロポニンのピーク値が低い。CAGをやってない症例も多い。冠動脈インターベンションが施行されたのは半分程度。

<結果>

(本文から引用)
STEMI、NSTEMIにかかわらず、β遮断薬の効果なし。

◇感想
AMIに対するβ遮断薬は、ガイドラインによって推奨度が異なる。AHA/ACCではすべてAMI患者に推奨されており、ESCでは心不全や左室収縮不全がない症例ではclassⅡaである。

心不全や左室収縮不全のない症例を対象にβ遮断薬の効果を検証したRCTはない。このデータは約18万人の前向きコホート研究なので、β遮断薬の効果を調べるにはパワーは十分と思われる。

患者背景についてだが、トロポニンのピークの中央値は低く、ほんとに軽いAMIが多い。この結果を、たとえばピークCKが2000ぐらいの心不全がないAMIにも適応できるのかはわからない。そういう患者でもβ遮断薬の効果がないと言っていいのかどうなのか。

少なくとも、β遮断薬が予後を悪化させているわけではないので、血圧や心拍数が許容できるなら処方していても悪くないし、血圧や心拍数が低いのにあえて入れる必要はないということだろう。

エゼチミブはTRS2°Pを参考に

IMPROVE-IT試験では、冠動脈疾患二次予防において、シンバスタチンにエゼチミブを加えることで、心血管イベントが抑制することが示された。

7年間の観察期間で、心臓血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院、無作為化から30日以降の再血行再建、非致死的脳梗塞の複合エンドポイントが、エゼチミブ群34.7%、シンバスタチン単独群32.7%と、ARR2%とわずかであるが、統計学的には有意な差を認めた。


(N Engl J Med. 2015;372(25):2387-97より引用)

死亡率に差はないが、非致死的心筋梗塞、脳梗塞、血行再建を減らしている。

では、どのような患者でより効果が高いのか。

Atherothrombotic Risk Stratification and Ezetimibe for Secondary Prevention.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(8):911-921

ここでは、TRS2°Pというスコアが使われている。慢性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、陳旧性脳梗塞、CABGの既往、末梢動脈疾患、eGFR<60、喫煙の9つの項目をいくつ満たすかというもの。最小はゼロ、最大で9点ということになる。

0−1点がlow、2点がintermediate、3点以上がhighというカテゴリに分けられる。TRS2°P≧3点であれば、エゼチミブによるリスク減少が期待できる。


(本文から引用)

IMPROVE-IT試験では、TRS2°P:1点は45%、2点は30%、3点以上は25%であった。自分が診ている患者だと、0−1点というのはそれほど多くない気がする。


(本文から引用)

Cが心筋梗塞、Dが脳梗塞、Aが心血管死+心筋梗塞+脳梗塞。単純な足し算・引き算はできないが、TRS2°Pが3点以上のハイスコアでも心血管死は減ってなさそう。

TRS2°Pが0−2点なら、エゼチミブはいらない。3点以上のハイリスクでは、スタチンを十分量内服してそれでもリスクが高いと考えるなら、エゼチミブを考慮してもいいだろう。

FOURIER試験 PCSK9抗体エボロクマグは心筋梗塞と脳梗塞を減少させる

Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease
N Engl J Med. 2017 Mar 17. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
エボロクマブはPCSK9を阻害するモノクローナル抗体で、LDLコレステロールを約60%低下させる。これが、心血管イベントを抑制するかはわかっていない。

方法
無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験を行なった。動脈硬化性心血管疾患があり、スタチンを内服しているにも関わらずLDLコレステロール70mg/dl以上の患者27564例を組み入れた。患者は、エボロクマブ皮下注(140mgを2週に1回、または420mgを月に1回)か、プラセボ皮下注に割り付けた。主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建の複合エンドポイントである。副次評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳梗塞である。フォローアップの中央値は2.2年である。

結果
48週時点で、エボロクマブ群のLDLコレステロールは、ベースラインの92mg/dlから30mgmg/dlと59%低下していた。プラセボに対しエボロクマブは主要評価項目を有意に減少させた(9.8%vs11.3%、HR:0.85、95%CI:0.79−0.92)。副次評価項目も有意に減少させた(5.9%vs7.4%、HR:0.80、95%CI:0.73−0.88)。結果は、もっともLDLコレステロール値が低かったサブグループ(中央値74mg/dl)を含め、主要なサブグループでも一貫していた。注射部位の反応はエボロクマブ群で多く見られたが(2.1%vs1.6%)、新規の糖尿病の発症や神経認知的なイベントを含め有害事象に有意差はなかった。

結論
この試験では、スタチンにエボロクマブを加えることで、LDLコレステロールが30mg/dl(中央値)になり、心血管イベントリスクを減少させた。これの結果は、動脈硬化性心血管疾患ではLDLコレステロールを現在の目標値からさらに低下させることが有効であることを示している。

◇この論文のPICOはなにか
P:動脈硬化性心血管疾患
I:エボロクマブ皮下注(140mgを2週に1回、または420mgを月に1回)
C:プラセボ皮下注
O:心血管死、心筋梗塞、脳梗塞、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建

inclusion criteria:40−85歳、動脈硬化性心血管疾患(陳旧性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞、症候性末梢動脈疾患、心血管疾患リスクが高い患者)、至適資質低下療法(アトルバスタチン20mg以上相当の高強度スタチン±エゼチミブ)にも関わらずLDLコレステロール70mg/dl以上またはnonHDL100mg/dl以上、
exclusion criteria:記載なし

◇baselineは同等か

(本文から引用)
エボロクマブ群で、わずかに体重が軽くて抗血小板薬の内服が多い。

アジア人は13%、80%がOMI、70%が高強度のスタチンを、5%でエゼチミブを内服。

◇試験の概要
地域:49ヶ国、1242施設
登録期間:2013年2月〜2015年6月
観察期間:26ヶ月(中央値、四分位範囲:22−30ヶ月)
無作為化:中央コンピュータシステム、LDL(85mg/dl)と地域で層別化
盲検化:二重盲検
必要症例数:副次評価項目に対し必要症例数を設定。power90%、15%の相対リスク低下を検出するために1630イベントが必要。
症例数:27564例(エボロクマグ群13784例、プラセボ群13780例)
追跡率:99.6%(早期の試験中止は12.5%)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Amgen社)

◇結果

主要評価項目のうち、血行再建によるリスク低下が最も大きい。心血管死、心筋梗塞、脳梗塞の複合エンドポイント(副次評価項目)だと、リスク減少は全体で1.5%と絶対値としては小さい。心血管死は減らず、減る傾向もない。

◇批判的吟味
二重盲検試験だが、エボルクマブ投与によりLDLが著しく下がるので(中央値で92→30mg/dl)、どちらの群に割り付けられたかはある程度わかる。そのため、盲検化の維持が難しく、主要評価項目に含まれている「血行再建」については、バイアスがかかる可能性がある。

そして、主要評価項目のうち、絶対リスク減少が最も大きいのが血行再建である。普通の薬なら複合エンドポイントに含めるのは妥当かもしれないが、これほど高価な薬剤なので治療効果の判定には血行再建は含めず、心血管死、心筋梗塞、脳梗塞だけ(副次評価項目)をみる方がいいだろう。

副次評価項目では、エボロクマブの投与による絶対リスク減少は、心血管死では全く差がない。心筋梗塞では1.2%、脳梗塞では0.4%とそれぞれ有意に低下しているが、絶対値としては小さく、これはサンプルサイズがかなり大きいために統計学的有意差がついたと考えられる。

NNTは74であり、日本での薬価は22948円なので、約8830万円かけて1件の心筋梗塞または脳梗塞を減らすという計算になる。それだけの大金をかけても、心筋梗塞か脳梗塞が1件減るだけで、死亡率を減少させることはできない。PCSK9抗体の適応がある家族性高コレステロール血症と早発性心血管疾患の患者すべてにPCSK9抗体を使用すると、5年間で心血管治療費が290億ドル削減できるが、薬剤費は5920億ドルに増加するというデータもあり、決して費用対効果に見合ったものではない(JAMA.2016;316(7):743-53)。

心血管イベントを抑制する効果が高い薬剤であるということは理解できるが、問題は誰に用いるべきかということだと思う。この試験では、当初最大耐用量のスタチン内服下の患者が対象となっていたが、試験途中でプロトコールの変更があり、アトルバスタチン20mg以上の至適薬物治療という条件に変更されている。もし、心血管イベントの発生がLDLの値に比例して低下するなら(the lower,the betterなら)、まずはスタチンを最大耐用量内服させるべきだろう。

スタチンを開始・増量する上で、肝障害と筋症状がでてくる場合があるが、それが原因でスタチンが内服できないことは多くない。

スタチンによる肝酵素上昇は0.5−2.0%で認められ、容量依存的で、スタチンの減量・中止で良くなる。そして、薬剤の再開や他のスタチンに変更しても、再発することはあまりない。肝酵素の正常上限の3倍までの上昇は、フォローは必要だが薬剤を中止する必要はない。なお、肝不全は非常にまれ。正常上限の10倍以上のCK上昇が起こる頻度は、約0.09%。その場合は、スタチンを中止する。正常上限の3−10倍の上昇なら、CKのフォローとスタチンの減量・一時的な中断を考慮する(Circulation.2002;106(8):1024-8)。

心血管リスクが高い患者ならなおさら、肝酵素上昇やCKが上昇したからといって、安易に中止すべきではない。

IMPROVE-IT試験でもスタチンにエゼチミブを併用することで、LDLは50mg/dl台に低下し、心血管イベントは減少しているため、最大耐用量のスタチンで十分LDLが低下しなければ、費用対効果を考えるとエボロクマブを使うより、まずエゼチミブの併用を考慮すべきだろう(本試験では5%しか併用されていなかった)。

家族性高コレステロール血症、早発性心血管疾患のうち、費用対効果の高い集団(より心血管リスクが高い患者)がわかれば、その集団に限って使用するというのはreasonableだと思う。サブグループ解析などのデータが役立つかもしれない。

◇感想
心血管疾患二次予防において、PCSK9抗体であるエボロクマブにより、心筋梗塞及び脳梗塞が有意に低下した。最大耐用量のスタチンとエゼチミブを内服しているがLDLコレステロールが十分低下しない患者に対しては、エボロクマグを考慮してもいいかもしれない。

STEMI+多枝病変 完全血行再建は緊急血行再建のみ減少させる

Complete or Culprit-Only Revascularization for Patients With Multivessel Coronary Artery Disease Undergoing Percutaneous Coronary Intervention: A Pairwise and Network Meta-Analysis of Randomized Trials.
JACC Cardiovasc Interv. 2017 Feb 27;10(4):315-324

多枝病変を有するSTEMI患者の予後が悪いことは知られているが、primary PCIを行なった後に残存した狭窄に対しどのような治療戦略(薬物療法のみか、PCIも行うか、PCIを行うならそのタイミングはいつが良いか)が最適かどうかはわかっていない。

◇論文の概要
多枝病変を有するSTEMIを対象としたメタ解析である。

10個のRCT(2285例)を組み入れ、残存狭窄に対する治療を、薬物療法のみと完全血行再建(primary PCTと同時、入院中、退院後)に分けている。


(本文から引用)
責任病変のみと完全血行再建を比較。完全血行再建を行なっても、死亡率や再梗塞率はかわらない。死亡のI2統計量は1.8%と異質性は低く、信頼性が高いデータ。減少するのは、緊急血行再建のみ。いずれの試験もオープンラベルなので、緊急血行再建はバイアスが入る余地がある。

ちなみに、心筋梗塞を減らしているPRAMI試験では、primary PCI時に残存病変の治療も行なっているため、手技に関連した心筋梗塞はマスクされる可能性がある。


(本文から引用)
PCIのタイミングについて、責任病変のみ、primary PCIと同時、入院中、退院後の4つのストラテジーでの比較。死亡率は責任病変のみでも完全血行再建でも変わらない。緊急血行再建は、完全血行再建を行なった群で有意に少ないが、完全血行再建の中では、primary PCIと同時、入院中、退院後のいずれのタイミングでも、差はない。

◇感想
STEMIの残存病変に対する完全血行再建は、緊急血行再建は減らすが、死亡率、再梗塞率は減らさない。治療の性質上オープンラベルなので、血行再建というソフトエンドポイントはバイアスが入る余地がある。

以前publishされているメタ解析(J Am Coll Cardiol 2011;58:692–703)では、責任病変のみ、primary PCIと同時、staged PCIを比較し、staged PCIが短期予後と長期予後を改善させたと報告している。ただ、このメタ解析には観察研究を含んでいて、primary PCIと同時に残存狭窄の治療を行なった群に、Killip Ⅳやショックが多く含まれているので、選択バイアスや無イベント時間バイアスが入っている可能性がある。

STEMIの残存狭窄の治療対象となるのは、安定狭心症と同様、angiographicalではなくFFR guideが良いと、DANAMI3-PRIMULTI試験で決着が付いている。では、PCIのタイミングはというと、このメタ解析が示すように、primary PCIと同時でも、入院中でも、退院後でも、いつでも変わらない。

そして、残存狭窄に対するPCIのベネフィットは、緊急血行再建の減少のみ。死亡率や再梗塞率の減少という恩恵を受けている患者もいるかもしれないが、集団でみた場合にはその有効性は示されていない。

ReACT試験 フォローアップ冠動脈造影はルーチンで行う必要がない

The ReACT Trial: Randomized Evaluation of Routine Follow-up Coronary Angiography After Percutaneous Coronary Intervention Trial.
JACC Cardiovasc Interv. 2017 Jan 23;10(2):109-117

《要約》
目的
この試験の目的は、日本で一般的である、カテーテル治療(PCI)後にルーチンで行われるフォローアップの冠動脈造影(FUCAG)の長期的な臨床上のインパクトを調べることである。

背景
PCI後にルーチンで行われるFUCAGの、長期的な臨床上のインパクトは十分調べられていない。

方法
前向き、他施設、オープンラベル、無作為化試験である。PCIに成功した患者を、冠動脈造影をルーチンで行う群(AF群)と、行わない群(CF群)の2群に無作為に割り付け、AF群ではPCIから8−12ヶ月後にFUCAGを行った。主要評価項目は、最短で1.5年の観察期間での、死亡、心筋梗塞、脳梗塞、急性冠症候群(ACS)による緊急血行再建、心不全による入院の複合エンドポイントである。

結果
2010年3月から2014年7月の間で、22施設からAF群349例、CF群351例の計700例を登録した。中央値4.6年(四分位範囲3.1−5.2年)の観察期間で、主要評価項目の5年間の累積発生率はAF群で22.4%、CF群で24.7%であった(HR:0.94、95%CI:0.67-1.31)。最初の1年に行われる血行再建は、AF群で有意に多かったが(12.8%vs3.8%、log-rank p<0.001)、5年間の観察期間ではその差は薄れた(19.6%vs18.1%, log-rank p=0.92)。

結論
PCI後にルーチンで行われるFUCAGは臨床的ベネフィットがなく、早期の血行再建はFUCAGを行なった患者群で有意に増加した。

◇この論文のPICOはなにか
P:PCIに成功した冠動脈疾患患者
I:PCIから8−12ヶ月後にルーチンでの冠動脈造影を行う(AF群)
C:ルーチンでの冠動脈造影を行わない(CF群)
O:死亡、心筋梗塞、脳梗塞、急性冠症候群(ACS)による緊急血行再建、心不全による入院

inclusion criteria:staged PCIが予定されていない患者
exclusion criteria:なし

◇baselineは同等か

同等。たぶんAPがメインで、病変とステント数は1コか2コ。CTOは少ない。2stentで治療されていた患者の割合は不明。スタチンやβblockerの内服率は高くない。

◇試験の概要
地域:日本
登録期間:2010年3月〜2014年7月
観察期間:中央値4.6年(四分位範囲3.1−5.2年)
無作為化:施設、BMS使用で層別化した上で、退院前に登録し無作為化する。
盲検化:オープンラベル
必要症例数:当初は、3年間のCF群でのイベント発生率25%、介入により15%の相対的リスク減少、power80%で、必要症例数3300例と算出されていたが、登録が進まないために2014年に700例に修正されている(5年間の観察期間で、CF群のイベント発生率が47.7%、介入により25%の相対的リスク減少、クロスオーバーやロストフォローアップが25%と仮定)。
症例数:AF群349例、CF群351例の計700例
追跡率:不明
クロスオーバー:AF群14.6%、CF群12.0%
解析:ITT解析
スポンサー:記載なし

◇結果

TLRや血行再建はAF群で増えているが、その結果ACSが減っているかというと、そうではなさそう。

◇批判的吟味
・PCIは、病変としてはシンプルな患者がメインっぽい。
・糖尿病の患者が半分近くいて、高血圧・脂質異常・冠動脈疾患の既往など、リスクは高め。
・症例が集まらず、途中でサンプルサイズ変更しているが、変更後のサンプルサイズには達している。
・観察期間は5年なので、設定されたアウトカムを評価するには十分な期間だと思う。
・APに対するPCIに心筋梗塞予防効果や生命予後改善効果がないことを考えると、ルーチンのフォローアップCAGに意味があるとは考えにくい。パワー不足の可能性はあるが、結果については異論がない。
・AF群で早期の血行再建が多いが、その後CF群も増えている。血行再建をいつやるかというタイミングの問題かもしれない。ただ、フォローアップCAGをルーチンでやった方が、医療費はかさむ。

◇感想
PCI後のフォローアップCAGは、臨床的なアウトカムは改善しないという結果。費用対効果を考えれば、多くの患者でルーチンでのフォローアップCAGは不要で、症状の再燃や客観的な虚血が証明された場合に限った方がいいだろう。

この試験に組み入れらた患者は、スタチンはそこそこ処方されているが、βblockerの処方率は低い。冠動脈疾患者に対する実臨床を反映していると思うが、自分が患者だったら、症状の有無に関わらず、とりあえずスタチンとβblockerは最大耐用量まで増やしてもらって、その後PCIをどうするか考えるなぁ。

PCSK9阻害薬アリロクマブのLDL低下効果

《要約》
背景
PCSK9阻害薬であるアリロクマブは、スタチンで治療されている患者のLDLレコステロール値を低下させることが示されている。安全性と有効性を証明するために、より大規模で長期の試験が必要である。

方法
心血管イベントリスクが高く、スタチンを最大耐用量を内服しているにもかかわらずLDLコレステロール≧70mg/dの患者l2341例を組み入れた無作為試験を行なった。患者を、アロリクマブ(150mg)またはプラセボを2週に1回皮下注を行う2群に、2:1に無作為に割り付けた。有効性主要評価項目は、ベースラインから24週時点でのLDLコレステロールの変化率である。

結果
アロリクマブ群とプラセボ群のLDLコレステロールの変化率の差は、−62パーセンテージポイントであった(P<0.001)。治療効果は78週にわたり一貫していた。アロリクマブ群はプラセボ群に比べ、注射部位の反応(5.9%vs4.2%)、筋肉痛(5.4%vs2.9%)、神経認知イベント(1.2%vs0.5%)、眼科的なイベント(2.9%vs1.9%)が多かった。事後解析では、心血管イベント(冠動脈死、非致死性心筋梗塞、致死性・非致死性脳梗塞、入院を要する不安定狭心症)はアロリクマブ群で少なかった(1.7%vs3.3%、HR:0.52、95%CI:0.31−0.90)。

結論
最大耐用量のスタチンにアロリクマブを加えることで、LDLコレステロールを有意に低下させた。事後解析では、アロリクマブの心血管イベントの減少が認められた。

◇この論文のPICOはなにか
P:スタチンを最大耐用量内服している冠動脈リスクが高い患者
I:アロリクマブ150mg皮下注
C:プラセボ皮下注
O:24週でのLDLコレステロールの変化率

inclusion criteria:LDLコレステロール70mg/dl以上、18歳以上、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体、冠動脈疾患、またはそれと同等のリスクを有する患者(末梢動脈疾患、虚血性脳梗塞、中等度の慢性腎臓病[eGFR30−60]、糖尿病とそれ以外の2つリスク[高血圧、ABI≦0.9、微量アルブミン尿、早発の冠動脈疾患の家族歴など])、少なくとも登録の4週前からスタチンを最大耐用量内服していること
exclusion criteria:本文には記載なし

◇baselineは同等か
同等。
ざっくりいうと、年齢60歳、ほとんど白人、BMI30と太っていて、70%が冠動脈疾患患者、1/3が糖尿病、ほぼ100%スタチンを内服している。LDLは120ぐらいで、HDL50ぐらい。

◇試験の概要
地域:アフリカ・ヨーロッパ・北米・南米の27カ国
登録期間:記載なし
観察期間:記載なし
無作為化:記載なし
盲検化:患者、治療実施者は盲検化されている。
必要症例数:LDLがどれくらい下がるかは記載がないが、12・18ヶ月時点でのドロップアウトがそれぞれ25%.35%で、2100例(アリロクマブ群1400例、プラセボ群700例)とされている。
症例数:2341例(アリロクマブ群1553例、プラセボ群788例)
追跡率:アリロクマブ群89.2%、プラセボ群89.8%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Sanofi社、Regeneron Pharmaceuticals社)

◇結果

LDLはすごく下がって、HDLもちょっと上がる。約80%で、LDL<70mg/dlを達成。

◇批判的吟味
・このLDL低下が、心血管イベントの抑制につながるかは、現時点では明らかではない。今後、PCSK9阻害薬でも、the lower the betterが証明されるのか。
・HDLもちょっと上がっており、この上昇が心血管イベントの抑制に働く可能性。

◇感想
心血管イベントをアウトカムにしたFOURIER試験(エボロクマブ)が行われていて、ポジティブな結果が出たそうで、今月のACCで発表されると。FOURIER試験では27000例も組み入れられているが、それだけの症例が必要になったのは、対照群のイベント率が低いからなのか、それともエボロクマブによる効果が小さいからなのか。

対照群で4.5%/年のイベント率、エボロクマブにより15%の相対リスク減少という仮説で試験が組まれている様。心血管死、心筋梗塞などのハードエンドポイントを減らすのか、あるいはUAPによる入院や血行再建などのソフトエンドポイントの抑制が影響が大きいのか(上のようにPCSK9阻害薬でこれだけLDLが下がると、盲検化を維持するのが難しそうなので、これがソフトエンドポイントに影響を与える可能性はありそう)。結果が楽しみです。