カテゴリー別アーカイブ: 心臓手術

80歳代のスタンフォードA型急性大動脈解離の手術成績

Early and Late Outcomes of Surgical Repair for Stanford A Acute Aortic Dissection in Octogenarians.
Circ J. 2016 Nov 25;80(12):2468-2472

◇論文の概要
<背景>
高齢であることは死亡率と罹患率の強力な独立した予後因子と考えられ、80歳代のスタンフォードA型急性大動脈解離(AAD)では手術が避けられるかもしれない。

<方法と結果>
2005年から2015年の間に、胸骨正中切開でAADの外科的手術を158例行なった。80歳代の患者24例(15.2%、平均年齢83±3歳)と、79歳以下の患者134例(平均年齢62±13歳)をレトロスペクティブに比較した。80歳代では女性が多かった(79.2%vs44.8%、P=0.0033)。


(本文より引用)

上行大動脈の置換は80歳代で多く(95.8%vs65.7%、P=0.0015)、全弓部置換は70歳代以下で多かった(4.2%vs26.9%、P=0.00165)。院内死亡は70歳代以下では14例、80歳代では0例であった(0%vs10.4%、P=0.1303)。主要な罹患率は同程度であった。慢性期の死亡は、80歳代で3例、70歳代以下で9例であった。1,3,5年生存率は、80歳代では94.4%、81.5%、81.5%で、70歳代以下では86.9%、85.6%、83.9%で、有意差はなかった。


(本文より引用)

<結論>
80歳代のAADに対する外科的手術は、より若い集団と比較しても良好な結果であった。院内死亡率は低く、長期的なアウトカムも良好であった。したがって、患者が80歳代というだけで外科的手術を忌避すべきではない。

◇この論文のPECOは?
P:スタンフォードA型急性大動脈解離
E:80歳以上
C:79歳以下
O:院内死亡率、1-,3-,5-年生存率

◇批判的吟味
・80歳代では、大動脈基部置換はゼロ。上行大動脈置換のみで済む症例がほとんど。臓器環流障害もゼロ。比較的状態がよさそうな症例に手術が行われている。

・80歳以上で手術に回らなかった症例について検討されていない。

・交絡因子の調整なし。

・単施設、少数。

◇結果
80歳代の大動脈解離であっても、70歳代以下と院内死亡率、遠隔期死亡率は有意差がないという結果。

80歳代であったとしても、解離が上行に限局(DebakeyII型)、大動脈弁手術や基部置換が不要で上行置換のみで済む、循環動態が安定、臓器環流障害なしなど、状態が比較的良さそうな症例では、高齢であること自体はそこまでネガティブな要因にならないのかもしれない。

CABGで内胸動脈を両側使用した方がいいのか:ART試験

Randomized Trial of Bilateral versus Single Internal-Thoracic-Artery Grafts
N Engl J Med. 2016 Nov 14 [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)で、両側内胸動脈のグラフトは、片側内胸動脈と静脈グラフトを使用するより、長期的なアウトカムを改善させるかもしれない。

方法
7ヶ国28施設で、CABGが予定されている患者を、片側内胸動脈を用いたCABGと両側内胸動脈を用いたCABGに無作為に割り付けた。主要評価項目は10年間の全死亡である。全死亡、心筋梗塞、脳梗塞の複合エンドポイントを副次評価項目とした。中間解析は5年時に行うこととした。

結果
3102例を登録し、1554例を片側内胸動脈を用いたCABGに、1548例を両側内胸動脈を用いたCABGに無作為に割り付けた。5年間のフォローアップで全死亡は両側内胸動脈群で8.7%、片側内胸動脈群で8.4%で(HR:1.04、95%CI:0.81−1.32)、全死亡・心筋梗塞・脳梗塞の複合エンドポイントは12.2%vs12.7%であった(HR:0.96、95%CI:0.79-1.17)。胸骨創部に関連した合併症は、両側内胸動脈群で3.5%、片側内胸動脈群で1.9%(P=0.005)、胸骨再建は両側内胸動脈群で1.9%、片側内胸動脈群で0.6%であった(P=0.002)。

結論
CABGで内胸動脈を片側だけ使用するか、あるいは両側使用するかで、5年間の死亡あるいは心血管複合イベントに有意差はなかった。胸骨の創部に関連した合併症は、片側内胸動脈群より両側内胸動脈群で多かった。10年間のフォローアップは現在進行中である。

◇この論文のPICOはなにか
P:CABGを予定されている患者
I:両側内胸動脈を用いたCABG
C:片側内胸動脈を用いたCABG
O:10年間の全死亡(secondary endpoint:全死亡+心筋梗塞+脳梗塞)

inclusion criteria:多枝病変
exclusion criteria:一枝疾患、弁膜症の手術も行う患者、再手術例

◇baselineは同等か
characteristics
同等。EF、僧帽弁閉鎖不全症(MR)の合併の有無とその程度についての記載はない。

◇結果
地域:7ヶ国
登録期間:2004年6月〜2007年12月
観察期間:5年間
無作為化:施設ごとの層別化を伴う置換ブロック法。コーディネーティングセンターへ電話して無作為化を行う。
盲検化:オープンラベルだがアウトカムへの影響はない
必要症例数:3000例(10年間の全死亡は両側内胸動脈群で20%、片側内胸動脈群で25%、power90%、αlevel0.05で2928例と算出され、たぶんロストフォローアップを加味してか、必要症例数を3000例としている)
症例数:3102例(両側内胸動脈群:1548例、片側内胸動脈群:1554例)
追跡率:両側内胸動脈群:1477/1548例(95.4%)、片側内胸動脈群:1492/1554例(96.0%)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし

片側内胸動脈群で内胸動脈を使用したのは96.1%、両側内胸動脈群で両側とも内胸動脈を使用したのは予想より高かったらしく83.6%であった。40.6%でoff-pump CABGが行われたようだが、群間差があるのか記載なし。

5年の時点での内服薬には群間差なし。
アスピリン:88.9%
β遮断薬:76.2%
スタチン:89.0%
ACE阻害薬/ARB:73.4%

result

◇批判的吟味
・両側内胸動脈が使用されたのは83%と予想より低く、差を薄める方向に働くかも。
・off-pump CABGの割合に群間差があるかわからない(脳梗塞への影響)。
・生命予後に影響を与える因子として、baselineのLVEFとMRの有無と程度についての記載がない。
・薬剤(アスピリン、スタチンなど)の使用率に群間差はないが、少し低い。
・一般的に静脈グラフトは動脈グラフトより開存率が劣るが、その使用率がわからない。
・追跡率は高い。

◇感想
CABGで両側の内胸動脈を使用しても片側でも、5年の時点での生存率に差はないという結果。5年で差がつかないなら、70歳を超えるような高齢者では、片側の内胸動脈だけで十分かもしれいない。

静脈グラフトとin-situの内胸動脈の差が出てくるのはこれからと思われるので、10年間のフォローアップで有意な差が出てくるかどうか(Kaplan-Meierをみるとあまり変わらない雰囲気)。もし、10年のスパンで差がでてくるなら、若年でCABGをする人には両側内胸動脈で、ということになるかもしれない。

左冠動脈主幹部病変 5年間のMACCEはCABGよりもPCIで多い

Percutaneous coronary angioplasty versus coronary artery bypass grafting in treatment of unprotected left main stenosis (NOBLE): a prospective, randomised, open-label, non-inferiority trial.
Lancet. 2016 Oct 31. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)は左冠動脈主幹部病変の標準的治療であるが、経費的冠動脈インターベンション(PCI)での治療も増えている。我々は、左冠動脈主幹部病変でPCIとCABGを比較した。

方法
前向き、無作為化、オープンラベル、非劣性試験である。北欧36施設で左冠動脈主幹部病変を有する患者を登録し、PCIとCABGに1:1に無作為に割り付けた。安定狭心症、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)を対象とし、24時間以内のST上昇型心筋梗塞(STEMI)、1年以内の生命予後は除外した。主要評価項目はmajor adverse cardiac or cerebrovascular events(MACCE)で、全死亡、手技に関連していない心筋梗塞、再血行再建、脳梗塞の複合エンドポイントである。5年間のフォローアップで、ハザード比の95%信頼区間が1.35を超えない場合に、PCIはCABGに対し非劣性とし、ITT解析を行った。

結果
2008年12月9日から2015年1月21日までに、1201例をPCIとCABGに無作為に割り付けた。PCI群598例、CABG群603例で、両群とも592例をITT解析に組み入れた。5年間のMACCEは、PCI群で29%(121イベント)、CABG群で19%(81イベント)、HR1.48(95%CI1.11-1.96)で、非劣性の上限を超えており、CABGはPCIと比較し有意にMACCEの発症が低かった(P=0.0066)。as treatment解析では、28%vs19%、HR1.55(95%CI1.18-2.04)であった。5年間の全死亡は、12%vs9%、HR1.07(95%CI0.67-1.72)、5年間の心筋梗塞は、7%vs2%、HR2.88(95%CI1.40-5.90)、5年間の再血行再建は、16%vs10%、HR1.50(95%CI1.04-2.17)、脳梗塞は5%vs2%、HR2.25(95%CI0.93-5.48)であった。

結論
これらの結果から、左冠動脈主幹部病変の治療はPCIよりCABGがベターであると考えられる。

◇この論文のPICOはなにか
P:左冠動脈主幹部病変
I:PCI
C:CABG
O:MACCE(全死亡、手技に関連していない心筋梗塞、再血行再建、脳梗塞の複合エンドポイント)

inclusion criteria:安定狭心症、不安定狭心症、NSTEMI、左冠動脈主幹部に50%以上の狭窄があること、FFR0.80以下であること、その他の病変が複雑でなく3つ以下であること(複雑病変とは、CTO、2stent techniqueが必要な病変、石灰化病変、屈曲病変である)

exclusion criteria:24時間以内のSTEMI、1年以内の生命予後

◇baselineは同等か
baseline
同等。平均年齢66歳、女性は20%、DMが15%。Syntaxスコアは22±8なので、大部分はlowとintermediateで、80%でbifurcationを絡む。

◇結果
地域:北欧(ラトビア、エストニア、リトアニア、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、英国、デンマーク)
登録期間:2008年12月9日〜2015年1月21日
観察期間:4.1年(中央値、四分位範囲3.0−5.0)
無作為化:web-based computer randomisation systemを用いている。permutated block with stratification。
盲検化:オープンラベル。
必要症例数:1200例(2年間のフォローアップでMACCEがPCI群で30%、CABG群で23%、非劣性マージン1.35として算出)
症例数:1201例
追跡率:試験デザインとしては2年間なので、そこまでは約90%と良いが、今回の5年間のフォローアップデータは40%弱の追跡率になっている。
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Biosensors社)

PCIに関して。
88%がbifurcationを絡んでステントを留置されているが、KBTが行われたのは55%。35%が2ステント。第一世代DESは11%で使用されている。IVUSが使用されたのは、preで47%、postで74%と低い。

CABGに関して。
84%がon-pumpで行われている。LADに動脈グラフトを使用したのは93%で、内胸動脈は86%とちょっと低い。

result

◇批判的吟味
・追跡率が低すぎるので、無作為化は維持できていないと考えられる。
・動脈グラフト・内胸動脈の使用率が少し低いので、長期的なグラフト開存率は低くなるはず。
・静脈グラフトは10年で半分ぐらいの開存率なので、これからCABG群で再血行再建が増えてくるかも。
・ほとんどon-pumpなので、周術期の脳梗塞はoff-pumpより高いはず。
・IVUS使用率、KBT施行率が低く、再血行再建を増やす方向に働くかも。
・脳梗塞がPCIで有意に高くなっている理由がわからない。

◇感想
左冠動脈主幹部病変にPCIをやるか、CABGをやるかで比較した試験。追跡率が40%と低いので内的妥当性は微妙だけど、5年間のフォローアップで、全死亡は変わらないが、心筋梗塞は約3倍、再血行再建は1.5倍、PCIで多くなってしまう。

そりゃそうだろうなという結果でした。ただ、追跡率が低かったり、PCIの手技が日本で行われるような手技ではなかったり、on-pumpCABGが多かったりと、日本の実情とは異なる印象でした。

Syntax試験とは異なり、PCI群でSyntaxスコアとイベントに関連はなかった様です。感覚的には、病変の複雑性が増せばイベント発症率は上がりそうなので、これも追跡率が低いことと関連があるのかもしれません。

STICH試験 年齢別サブグループ解析

Ten-Year Outcomes After Coronary Artery Bypass Grafting According to Age in Patients With Heart Failure and Left Ventricular Systolic Dysfunction: An Analysis of the Extended Follow-Up of the STICH Trial (Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure).
Circulation. 2016 Nov 1;134(18):1314-1324.

《要約》
背景
EFが低下し、冠動脈バイパス術(CABG)の合併症のリスクがより高い心不全において、高齢により冠動脈疾患(CAD)の有病率は高くなる。虚血性心筋症による心不全で、異なる年齢でもCABGの効果が同等にあるかどうかは明らかではない。

方法
STICH試験で、CABGの適応があるEF35%以下のCAD患者1212例を、CABGと薬物療法に無作為に割り付け、9.8年間フォローした。

結果
平均年齢60歳、12%が女性、36%が非白人、baselineのEFは28%であった。年齢により4つのカテゴリに分けた。Quartile1:54歳以下、Quartile2:55−59歳、Quartile3:60−67歳、Quartile4:68歳以上である。より高齢の患者で併存疾患が多かった。高齢者(Quartile4)と若年者(Quartile1)の全死亡を比較した場合、薬物療法でも(79%vs60%、P=0.005)、CABGでも(68%vs48%、P<0.001)、高齢者で高かった。対照的に、心血管死の年齢による統計学的な差は、薬物療法でも(Quartile4vs1、53%vs49%、P=0.388)、CABGでも(Quartile4vs1、39%vs35%、P=0.103)認めなかった。Quartile4でも1でも、もっとも多い死亡原因は心血管死であった(79%、62%)。全死亡に対するCABGの効果は、年齢が上昇するほど減少する傾向にあるが(P for interaction=0.062)、心血管死に対するCABGの効果は、年齢に関わらず一貫している(P for interaction=0.307)。CABGは、高齢者よりも若年者で、全死亡と心血管イベントによる入院を減少させた(P for interaction=0.004)。CABGを行った患者で、人工心肺接続時間およびICU滞在日数は、年齢による違いはなかった。

結論
高齢者と比較し若年者では、薬物療法に加えCABGを行うことで、全死亡および全死亡と心血管イベントによる入院が大きく減少した。年齢に関わらず、薬物療法に加えCABGを行うことが、心血管死を減少させる。

◇この論文のPICOはなにか
P:CABGの適応があるEF35%以下のCAD
I:CABG+薬物療法
C:薬物療法のみ
O:全死亡

◇デザイン、対象、観察期間
・RCTの年齢によるサブグループ解析
・COX比例ハザードモデル?
・1212例
・観察期間:9.8年(中央値)

characeristics
年齢があがるほど白人が多くなる。非白人の方が生命予後が悪くなる要因(経済的要因など)があるのでしょうか。基礎疾患は、やはり年齢が高いほど多い。Quartile4で症状がない人が多いのは活動性の低さを表している気がする。当たり前だが、年齢が高いほど、Hbが低く、Crが高くなる。

medical-and-device
βblockerは入れにくいのか、80%強しか内服していない。スタチンは80%と低め。おそらく100%近い割合で、なんらかの抗血栓薬を内服してそう。

anatomy
MRの程度は年齢による差がない。三枝疾患やLAD近位部病変が多い。

◇結果
result
全死亡は、CABG群で低い。心血管死もQuartile3でほぼ同等だが、他は一応CABG群で低い。

◇批判的吟味
・心血管のアウトカムを評価するのに十分な観察期間。
・交絡因子の調整は??
・Quartile3だと、心血管死は薬物療法と変わらないし、Quartile4だとunkownが多いので、これが心血管死と考えると、高齢になるといろいろ併存疾患もあるし、ちょっとCABGは微妙かもしれない。
・Quartileの年齢の切り方が67歳としているのは、事前に設定されているのか。あるいは事後なのか。
・当たり前だが、60歳を超えると、非心血管死が多くなる。

◇感想
STICH試験の年齢によるサブグループ解析で、どの年齢層でもCABG+薬物療法を行うことで、全死亡、全死亡と心血管イベントによる入院を減らしたという結果。当たり前かもしれないが、CABG群でも薬物療法群でも、年齢が高くなると10年生存率は低くなってしまう。60歳以下の人でも10年生存率が半分ぐらいなので、冠動脈疾患はここまで進行してしまうと厳しい。

OPCAB(心拍動下冠動脈バイパス術)の長期生存率と再血行再建率

Long-Term Survival and Freedom From Reintervention After Off-Pump Coronary Artery Bypass GraftingA Propensity-Matched Study
Circulation. 2016;134:1209-1220

《要約》
背景
心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)の長期的なアウトカムは議論の的である。我々の施設では15年以上、OPCABと人工心肺を使用した冠動脈バイパス術(on-pump CABG)を行ってきた。我々の仮説は、OPCABとon-pump CABGに長期的なアウトカム(死亡と再血行再建)の差がないことである。

方法
2001年から2015年までにCABGの単独手術について、後ろ向きに検討した。プロペンシティスコアで調整後にITT解析を行った。OPCAB5882例、on-pump CABG7344例の合計13226例で、フォローアップ期間の中央値は6.2年であった。

結果
OPCAB群では、76/5882例(1.3%)でCPBへの切り替えがあった。1年、5年、10年生存率は両群で似通っていた(OPCAB vs CPB:96.7%、87.9%、72.1% vs 96.2%、87.4%、72.8%)。長期生存率(adjusted hazard ratio1.03、95%CI0.94−1.11)、生存率と再血行再建回避率pl0(HR0.98, 95%CI0.92-1.06)に有意差はなかった。OPCABではEuroSCOREsが高く(2.81vs2.73、P=0.01)、グラフト数が少なかったが(3.0±0.9vs3.3±0.9、P<0.001)、動脈グラフトは多かった(45.9%vs8.4%、P&;t;0.001)。OPCABは、術者がトレイニーであることが多く、心筋逸脱酵素の上昇が低く、在院日数が短く、心筋梗塞などの合併症が少なかった。

結論
我々の施設では、OPCABはon-pump CABGと長期成績は似通っていた。on-pump CABGへの切り替え率が低いことから、OPCABは安全であると言えるだろう。グラフト数は統計的には差があるが、臨床的には同等で、on-pump CABGと同等の生存率と再血行再建回避率であると明らかになった。


◇この論文のPICOは?
P:初回のCABG
I:OPCAB
C:on-pump CABG
O:生存率と再血行再建回避率

◇デザイン、対象、観察期間
・後ろ向きコホート研究
・2001年12月〜2015年10月
・プロペンシティスコアマッチ
・11078例(OPCAB5539例、on-pump CABG5539例)
・観察期間:6.2年(中央値)

characteristics1
characteristics2
OPCABの方が意外にEFが悪い人が多く、unstableな症例が多い。周術期のカテコラミンの使用率は高い。

◇結果
kaplan-meier1
生存率に有意差なし。

kaplan-meier2
生存率と再血行再建回避率の複合アウトカムにも有意差なし。

◇批判的吟味
・off-pumpとon-pumpを比較したものの中では長期のデータ。
・off-pumpの技術にはlearning curveがあるようで、off-pumpを始めた初期のデータは含んでいない。
・後ろ向きなので結論めいたことは言えない。

◇感想
off-pumpとon-pumpのどちらがよいかという、未だ結論が出ていない話題。約1万例の6.8年の後ろ向きのデータでは、off-pumpとon-pumpに生存率・再血行再建回避率に差はないという結果。

CORONARY試験など他のRCTとか、Cochrane Systematic Reviewでも、off-pumpとon-pumpの生存率に差がないみたいなので、たぶんどっちも変わらないってことでいいのでしょう。心拡大が著明とか、心膜が癒着しているような症例はon-pumpで、ということでしょうか。

off-pump CABGは、on-pump CABGと同等の長期成績 CORONARY試験

Five-Year Outcomes after Off-Pump or On-Pump Coronary-Artery Bypass Grafting
N Engl J Med. 2016 Oct 23. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
心拍動下バイパス手術(off-pump)と人工心肺使用心停止下バイパス術(on-pump)について、術後30日、1年での複合アウトカム(死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全)に有意な差がないことを、以前報告した。そして、術後5年の結果を報告する。

方法
冠動脈疾患(CAD)を有する患者4752例を、off-pumpまたはon-pumpCABGに無作為に割り付けた。死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、再血行再建(CABGもしくはPCI)の複合エンドポイントである。フォローアップ期間の中央値は4.8年である。

結果
off-pump群、on-pump群で複合エンドポイントに有意差はなかった(23.1%vs23.6%、off-pumpのHR0.98、95%CI0.87−1.10)。再血行再建はoff-pump群で2.8%、on-pump群で2.3%と有意差はなく(HR1.21、95%CI0.85−1.73)、それを含め、複合エンドポイントのそれぞれについても有意差はなかった。副次評価項目は患者一人あたりの医療費で、これもoff-pump群、on-pump群で有意差はなかった($15107vs$14992、群間差$115、95%CI-$697to$927)。QOLについても群間差はなかった。

結論
術後5年での、死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、再血行再建の複合エンドポイントはoff-pump、on-pumpで有意差はなかった。

◇この論文のPICOはなにか
P:CABGが予定されているCAD患者
I:心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump群)
C:人工心肺使用心停止下冠動脈バイパス術(on-pump群)
O:死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、腎不全、再血行再建の複合エンドポイント

inclusion criteria:以下のうち1つ以上のリスクがあること(70歳以上、末梢血管疾患、脳血管疾患、70%以上の頸動脈狭窄、腎機能障害)、60−69歳であれば以下のうち1つ以上・55−59歳であれば2つ以上のリスクがあること(糖尿病、ACSにより緊急血行再建を要する状態、EF<35%、1年以内に喫煙歴があること)

exclusion criteria:記載なし

◇baselineは同等か
characteristics
(NEJM2016;366:1489-1487より抜粋)
 病変数にのみ群間差あり。

◇結果
地域:19ヶ国79施設
登録期間:2006年11月〜2011年10月
観察期間:4.8年間(中央値)
無作為化: 24-hour automated voice-activated telephone randomization serviceを用いて無作為化を行っている。
盲検化:試験の性質上、open-label。
必要症例数:4700例(30日後の死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、腎不全を複合エンドポイントとして、28%の相対リスク低下、power80%、また5年後の上記の複合エンドポイントに再血行再建を加えたイベントに対し相対リスク低下20%、power90%として算出)
症例数:4752例(off-pump群2375例、on-pump群2377例)
追跡率:98.8%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし

off-pump群の7.9%(184例)でon-pumpに、on-pump群の6.4%(150例)でoff-pumpにクロスオーバーあり。

result
kplan-meier
second coprimary outcomeは、5年間の死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、血液透析を要する腎不全、再血行再建の複合エンドポイント。全く差がない結果。

◇批判的吟味
・primary outcomeに有意差はないが、必要症例数は満たしている。
・割り付け通りにCABGが行われたのは両群ともに90%以上で追跡率も良い。
・off-pumpだとグラフト数が少なかったり、途中でon-pumpに切り替えられたりということがあるが、それでも長期的なアウトカムに差はなかった。
・off-pumpでグラフト開存率が低いなら、心筋梗塞や死亡などへの影響は、これから出てくるのではないか。

◇感想
off-pumpとon-pumpに長期的なアウトカムに差があるかを検証した試験で、死亡、非致死性脳梗塞、非致死性心筋梗塞、血液透析を要する腎不全、再血行再建の複合エンドポイントは、両群に有意差はなかった。

off-pumpとon-pumpのどちらが優れているかについては議論がある様。短期的には、off-pumpでのaortic non-touch techniqueにより脳梗塞が減ることや、人工心肺使用による臓器障害を抑えられるが、長期的にはグラフト開存率が低いことによる心筋梗塞・再血行再建、ひいては死亡が増えるという懸念がある。日本では約60%がoff-pumpで行われるということで、グラフト開存率は海外より良く長期的なアウトカムも期待できるのかもしれない。

心臓手術後の心房細動 レートコントロールでもリズムコントロールでも効果に差はない

Rate Control versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac Surgery.
N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1911-1921

《要約》
背景
心臓手術後の心房細動は、死亡率や合併症の増加、入院期間の延長と関連がある。血行動態が安定した術後心房細動において、最善の初期治療戦略はレートコントールかリズムコントロールか議論が分かれる。

方法
新規発症の術後心房細動の患者を、レートコントロールとリズムコントロールに無作為に割り付けた。主要評価項目は無作為化以降の入院期間で、Wilcoxon rank-sum testによって評価した。

結果
術前に登録した2109例のうち695例(33.0%)に術後心房細動が起こった。その中で、523例が無作為化された。総入院日数はレートコントロール群とリズムコントロール群で変わらなかった(中央値はそれぞれ5.1日、5.0日、P=0.76)。死亡率、重大な有害事象(24.8/100人月 vs 26.4/100人月)、血栓塞栓症と出血イベントのいずれも有意差はなかった。両群で約25%が割り付けられた治療から逸脱した。主な原因は、レートコントロール群ではやくざいの効果不十分のため、リズムコントロール群ではアミオダロンの副作用のためである。60日後、30日にわたり心房細動のない安定した心拍リズムを維持できたのは、レートコントロール群では93.8%、リズムコントロール群では97.9%であった(P=0.02)。また、退院後から60日間、心房細動が見られなかったのは、レートコントロール群では84.2%、リズムコントロール群では86.9%であった(P=0.41)。

結論
術後心房細動のおいて、レートコントロールとリズムコントロールの治療戦略は、入院日数、合併症、心房細動の持続のいずれも同等であった。

◯この論文のPICOはなにか
P:心房細動の既往のない、血行動態の安定した心臓手術後の心房細動患者
I/C:レートコントロール、リズムコントロール
O:術後60日以内の入院日数

inclusion criteria:待機的心臓手術(冠動脈疾患、弁膜症)、心房細動が60分以上持続、術後7日以内の心房細動の再発
exclusion criteria:心房細動の既往

procedure:レートコントロール群では安静時心拍数100bpm未満を目標とする。レートコントロールで洞調律化しない場合、血行動態の改善や症状緩和に必要ならば、リズムコントロールを行う。リズムコントロール群ではアミオダロンを用い、24−48時間にわたり心房細動が持続するならカルディオバージョンを推奨する。アミオダロンは60日間継続することを推奨するが、アミオダロンに関連した有害事象(症候性徐脈、QTc>480msec、神経障害)があった場合は中止してもよい。心房細動が48時間以上持続する場合や、再発する場合はワルファリンによる抗凝固療法を開始する。

◯baselineは同等か
同等。心房細動のリスクになる高血圧や冠動脈疾患などの基礎疾患に群間差はなく、僧帽弁疾患も差はなさそう。術前の左房径についての記載はない。
characteristics

◯結果
地域:米国、カナダの23施設
登録期間:2014年5月〜2015年5月
観察期間:60日間
無作為化:方法についての記載はない
盲検化:記載なし
必要症例数:入院日数6.3日、両群間の入院日数の差は2.0日、power90%、αlevel0.05として、必要症例数は520例と算出
症例数:523例(レートコントロール群262例、リズムコントロール群261例)
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:National Institutes of Health, Canadian Institutes of Health Research。企業の関与はない。

リズムコントロール群で62/261例(23.7%)、レートコントロール群で70/262例(26.7%)のクロスオーバーあり。

result

◯感想/批判的吟味
・baselineの左房径についても知りたい
・どこまで盲検化されているかわからない
・クロスオーバーが多い
・必要症例数に達しているが、primary endpointで有意差がないので、レートコントロールでもリズムコントロールでも効果に差はないと言える。

中等度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症 術後2年では僧帽弁形成術の有効性を示せず

Two-Year Outcomes of Surgical Treatment of Moderate Ischemic Mitral Regurgitation.
N Engl J Med. 2016 Apr 3. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)単独と、CABG+僧帽弁形成術(MVP)では、術後1年での左室収縮末期容積係数(LVESVI)または生存率に有意差はなかった。CABG+MVPは、中等度もしくは高度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)の減少と関連していたが、有害事象が多かった。我々は術後2年のアウトカムを報告する。

方法
301例をCABG単独とCABG+MVPに無作為に割り付けた。2年間の臨床的なアウトカムと超音波学的なアウトカムをフォローした。

結果
術後2年での平均のLVESVIは、CABG単独群では41.2±20.0ml/m2体表面積、CABG+MVP群では43.2±20.6ml/m2体表面積であった(baselineからの平均の減少値はそれぞれ、−14.1ml/m2、−14.6ml/m2)。死亡率は、CABG単独群では10.6%、CABG+MVP群では10.0%であった(CABG+MVP群のHRは0.90、95%CI:0.45−1.83)。術後2年での中等度から高度のMRは、CABG単独群で多かった(32.3% vs 11.2%, P<0.001)。再入院や重大な有害事象は両群間で差はなかったが、神経学的イベントや上室性不整脈はCABG+MVP群でより多かった。

結論
中等度の虚血性MRを持つ患者のCABGでは、MVPを合わせて行っても、2年後の左室リバースリモデリングに違いをもたらさない。MVPはMRを抑えることができるが、生存率、有害事象、再入院を減少させず、また術後早期の神経学的イベントや上室性不整脈を増やす。

◯この論文のPICOはなにか
P:中等度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症を有する冠動脈多枝病変患者
I:CABGに加えMVPも行う(CABG+MVP群)
C:CABGのみ行う(CABG単独群)
O:2年後のLVESVI(もともとは12ヶ月後のLVESVIをprimary endpointとしていたが、12ヶ月では有意差はなく、今回はそのフォローアップのデータである)

exclusion criteria:構造的な僧帽弁疾患、PFOやASDに対する治療・左心耳閉鎖・Mazeが予定されている患者、僧帽弁手術の既往がある患者

◯baselineは同等か
心房細動がCABG+MVP群で多い。
LVESVIはCABG単独群の方が小さめだが、有意差はない。
characteristics
(NEJM2014;371:2178から引用)

◯結果
地域:米国26施設
登録期間:2009年〜2013年
観察期間:2年間
無作為化:層別化を行った上でブロック法により無作為化する。
盲検化:患者、治療介入者は盲検化できない。
必要症例数:術前のLVWSVI:80ml/m2、標準偏差:35ml/m2と想定。CABG単独群で4ml/m2、CABG+MVP群で16ml/m2改善すると仮定。また、power:0.9、αlevel:0.05として、症例数を300例としている。
症例数:301例(CABG+MVP群:150例、CABG単独群:151例)
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:National Institutes of Health、Canadian Institutes of Health Research。企業の関与はない。

CABG+MVP群で3/150例(2%)がCABGのみしか行われず、CABG単独群で8/151例(5.3%)がMVPも行っている。

LVESVI
  CABG+MVP群:41.2±20.0ml/m2体表面積
  CABG単独群:43.2±20.6ml/m2体表面積
result

◯感想/批判的吟味
・LVESVIというサロゲートエンドポイントで差はなかったが、死亡・再入院などの臨床的エンドポイントでも差はなかった。
・CABG+MVP群で心房細動が多く、baselineのLVESVIが有意差はないが若干大きめなので、それがMVPの有効性を減弱させる可能性がある
・臨床的なエンドポイントを見るには、2年間というのは短いのかもしれない。
・脳梗塞や神経学的イベントは、有意差はないもののCABG+MVP群で多い傾向。

2年という短期間では、中等度の虚血性MRに対するMVPの有効性はない。

STICH試験 低左心機能の冠動脈疾患患者に対するCABGは生命予後を改善する

Coronary-Artery Bypass Surgery in Patients with Ischemic Cardiomyopathy.
N Engl J Med. 2016 ;374(16):1511-20.

《要約》
背景
冠動脈疾患、心不全、高度左心機能不全の患者に対し、ガイドラインに基づいた薬物療法に加え冠動脈バイパス術(CABG)を行なった場合の生存利益は明らかではない。

方法
2002年7月から2007年5月に、EF<35%、CABGの適応がある冠動脈疾患患者1212例を、CABGと薬物療法(CABG群:610例)と薬物療法のみ(薬物療法群:602例)に無作為に割り付けた。主要評価項目は全死亡、副次評価項目は心血管死、その他の死亡、心血管が原因の入院とした。フォローアップ期間の中央値は9.8年である。

結果
主要評価項目は、CABG群では359例(58.9%)、薬物療法群では398例(66.1%)であった(HR:0.84、、95%CI:0.73−0.97)。心血管死は、CABG群で247例(40.5%)、薬物療法群で297例(49.3%)であった(HR:0.79、95%CI:0.66−0.93)。全死亡と心血管が原因の入院は、CABG群で467例(76.6%)、薬物療法群で524例(87.0%)であった(HR:0.72、95%CI:0.64−0.82)。

結論
薬物療法に加え、CABGを行なった虚血性心筋症患者では、10年以上の観察期間で、全死亡、心血管死、全死亡または心血管が原因の入院のいずれも、薬物療法のみ行った患者より有意に低かった。

◯この論文のPICOはなにか
P:EF<35%の冠動脈疾患患者
I:ガイドラインに基づいた薬物療法に加え、CABGを行う(CABG群)
C:ガイドラインに基づいた薬物療法のみ行う(薬物療法群)
O:全死亡(副次評価項目は、心血管死、全死亡または心血管が原因の入院、全死亡または心不全による入院、全死亡または全入院、全死亡または再血行再建)

inclusion criteria:詳細はSupplementary Appendix参照とのことなので省略。
exclusion criteria:左冠動脈主観部病変、CCSⅢ/Ⅳの狭心症

◯baselineは同等か
両群間に有意差なし。
characteristics

◯結果
地域:22カ国、99施設
登録期間:2002年7月24日〜2007年5月5日
観察期間:中央値9.8年
無作為化:interactive voice-response systemを用いる
盲検化:試験の性質上、患者と治療介入者は盲検化できないが、outcome評価者と解析者は盲検化されている。
必要症例数:Power90%、25%のリスク減少(薬物療法群での3年生存率75%と推定)として症例数を算出し登録を開始したが、症例数が集まらなかったため、400例のイベント(死亡)が発生するよう期間を延長した。必要症例数1200例、平均観察期間5年とている。今回はそのフォローアップのデータである。
症例数:1212例(CABG群610例、薬物療法群602例)
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:National Institutes of Health。企業の関与なし。

result

◯感想/批判的吟味
・CABG群で割り付け通りCABGが行われたのは555例(91.0%)、薬物療法群でCABGが行われたのは119例(19.8%)と、クロスオーバーが少なくない。
・薬物療法からCABGへのクロスオーバーによって、ITT解析を行うことでCABGの有効性がマスクされる可能性がある。
・baselineの平均年齢が60歳なので、半分以上の人はCABGの有無に関わらず60代のうちになくなっている。虚血性心筋症で低心機能だと、やはり予後が悪い。
・低心機能の冠動脈疾患患者でも、CABGには生命予後改善効果がある。

冠動脈バイパス術直前に、アスピリンを始めないほうがよい ATACAS試験

Stopping vs. Continuing Aspirin before Coronary Artery Surgery.
N Engl J Med. 2016 Feb 25;374(8):728-37.

《要約》
背景
心筋梗塞、脳梗塞、死亡に対する一次予防あるいは二次予防のため、冠動脈疾患を有する多くの患者がアスピリンを内服している。アスピリンは手術の出血リスクを増加させるが、冠動脈手術の前にアスピリンを中止すべきかどうかは明らかではない。

方法
冠動脈手術が予定されている患者を、2×2 factorial designでアスピリンとプラセボ、トラネキサム酸とプラセボに無作為に割り付けた。アスピリン試験の結果をここに報告する。患者はアスピリン100mgもしくはプラセボを術前に内服するよう無作為に割り付けられる。主要評価項目は、術後30日以内の死亡と塞栓症(非致死的心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓症、腎不全、腸管塞栓症)である。

結果
5784例のうち2100例を登録した。1047例をアスピリン群に、1053例をプラセボ群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、アスピリン群で202例(19.3%)、プラセボ群で215例(20.4%)認めた(RR:0.94、95%CI:0.80−1.12)。再手術を要する大出血はアスピリン群で1.8%、プラセボ群で2.1%であった(P=0.75)。心タンポナーデはそれぞれ1.1%と0.4%であった(P=0.08)。

結論
冠動脈手術が行われる患者において、術前にアスピリンの内服を開始することはプラセボに比べて、死亡と塞栓症のリスクを低下させず、出血リスクも増加させない。

◯この論文のPICOはなにか
P:冠動脈バイパス術(on-pumpまたはoff−pump)が予定されており、合併症のリスクが高い患者
I:術前にアスピリン100mgの内服を開始する(アスピリン群)
C:術前にプラセボの投与を開始する(プラセボ群)
O:術後30日以内の死亡と塞栓症(非致死的心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓症、腎不全、腸管塞栓症)

inclusion criteria:アスピリンを内服していないこと、術前にすくなくとも4週間以上アスピリンの内服を中止していること
exclusion criteria:本文には記載なし(inclusion/exclusion criteriaの詳細はsupplementary appendixを参照せよと)

手順
ワルファリン、クロピドグレルは少なくとも手術7日前に中止する。その他の抗血小板薬や抗凝固薬は施設に一任。アスピリン群とプラセボ群に1:1に無作為に割り付け、内服は手術1−2時間前から開始する。12誘導心電図は術前、術後1,2,3日後、退院前に記録する。術後12,24,48,72時間後に採血を行いトロポニンを測定する(トロポニンが測定できない場合にはCK−MBを測定)。入院中は毎日患者の評価を行い、手術30日後には電話でコンタクトを取る。

outcomeの定義
3rd universal definitionに基づく。加えて、Q波がない場合は、CABG後少なくとも12時間経過した段階での心筋バイオマーカーの上昇(トロポニンI:10ng/ml、トロポニンT:4ng/ml、CK−MB:正常上限の3倍)で評価する。ただし、CK−MBは近年の報告との一貫性を保つ為、正常上限の5倍とした。

3rd universal definition
CABGに関連した心筋梗塞はtype5に分類される。定義は、心筋トロポニンが正常上限の10倍以上に上昇していること。それに加え、1)新規のQ波またはCLBBB、2)造影上のグラフトまたは冠動脈の新規の閉塞、3)心筋バイアビリティの新規の欠如または新規の壁運動異常があること(circulation2012;126:2020-35)。

◯baselineは同等か
同等。
characteristics

◯結果
地域:オーストラリア・ニュージランドなど5カ国、19施設
登録期間:2006年3月〜2013年1月
観察期間:術後30日間
無作為化:コンピュータにより生成されたコードを用いて無作為化を行う。自動音声認識電話またはウェブベースサービスを使用。施設により層別化(隠匿化は難しくなる)。
盲検化:患者、治療介入者(術者、麻酔科医)、outocome評価者は盲検化されている。
必要症例数:αlevel0.05、power90%、primary endpointの発生はアスピリン群で7%、プラセボ群で10%と仮定し、必要症例数を4484例と算出し、4600例を登録する予定だった。試験途中でプロトコールを変更し、必要症例数を1880例(power90%、30%のリスク減少)とした。
症例数:2100例
追跡率:99.9%
解析:ITT解析
スポンサー:バイエルが腸溶性アスピリン100mgを提供。解析への関与はない。

result

◯感想/批判的吟味
・baselineは同等であるようだが、結果に影響を与える可能性がある因子としては、弁膜症(ischemic MR)の有無、LVEFが検討されていない。
・試験途中で必要症例数を変更している。理由は、1)すでにアスピリンを内服している患者が予想以上に多く、症例が集まらないこと、2)primary endpointの発生が予想以上に多くpowerが増したこと。
・修正した必要症例数を満たしているが、primary endpointで有意差はない。

アスピリンはグラフト血栓症、心筋梗塞、脳梗塞を減少させるが、手術の出血リスクがそれを上回るかもしれず、心臓手術前にアスピリンを中止すべきか否かについては明らかではないらしい。そして、このATACAS試験では、アスピリンを内服していない症例を対象に、アスピリンを術前に開始するかどうかで、死亡・塞栓症に差はでなかった。そして、出血事象が有意ではないが増えている。今までは、CABGにまわる症例でもルーチンでバイアスピリンを開始していたが、それを改めなければならないような結果である。