心血管疾患のない心房細動で、ワルファリンの心筋梗塞・脳梗塞予防効果はアスピリンに勝る

Antithrombotic Therapy and First Myocardial Infarction in Patients With Atrial Fibrillation.
Am Coll Cardiol. 2017;69(24):2901-2909

◇この論文のPECOは?
P:心血管疾患の既往のない心房細動
E/C:ワルファリンのみ、アスピリンのみ、ワルファリン+アスピリンの併用の3群
O:心筋梗塞

secondary endpointは脳梗塞と出血。

<デザイン、セッティング>
・デンマークのレジストリーデータ
・71959例
・観察期間:4.1年(中央値)
・ポアソン回帰モデル

<患者背景>

(本文から引用)
ASA+VKA群で、心不全、高血圧、糖尿病などの冠危険因子が多い。
ASA単独群は、年齢が高く出血を危惧され、アスピリンを処方されているのか?

<結果>

(本文から引用)
脳梗塞はアスピリンよりワルファリンがいいに決まっているが、出血に関してはアスピリンとワルファリンで有意差がない。心筋梗塞はアスピリンよりワルファリンの方が、予防効果が高い。

アスピリンとワルファリンの併用は、アスピリン単剤より心筋梗塞、脳梗塞を抑えるが、出血は逆に増える。

◇感想
ワルファリンも心筋梗塞予防効果があるが、その効果がアスピリンより高く出血も増えていないのは意外な結果だった。デンマークのレジストリーデータなので、フォローアップ率も極めて高く、まさにリアルワールドのデータ。

PT-INRの値やTTRもわかればよかったけど、この研究では調べられていないのは残念。この比較にDOACが入ってくるとどうなるか気もなるところです。

【総説】急性心筋梗塞 NEJM

Acute Myocardial Infarction
N Engl J Med 2017; 376:2053-2064

【定義】
・急性心筋梗塞には6つのタイプがある。
type1:アテローム血栓症によるもの
type2:需要と供給のミスマッチ
type3:心筋梗塞による突然死(バイオマーカーやECGなし)
type4a:PCIによるもの
type4b:ステント血栓症
type5:CABGによるもの

【疫学】
・米国ではここ30−40年で減少傾向にあるが、それでもAMIは55万人/年。低所得、中所得の国では増えている。

【病理】
・急性心筋梗塞は、不安定で脂質に富んだ動脈硬化性プラークの破裂や侵食によって起こる。

【初期評価】
・ACSが疑われる場合、来院から10分以内にECGをとり、トロポニン検査を行うこと。

・トロポニンは心筋炎などの心筋障害、心不全、腎不全、呼吸不全、脳梗塞、脳出血、敗血症性ショック、心構造疾患でも上昇する。トロポニンに加えて、CK-MBやミオグロビンを測ることは推奨されていない。

・リスク評価にはTIMIモデル、GRACEモデルが有効。

【初期治療】
・より迅速なprimaryPCIがアウトカムを改善する。

・院外心停止(初期波形VF)に対し、プレホスピタルで低体温療法を開始した2つのRCTがある。病着時の体温は有意に下がっていたが、病着後に低体温療法を開始する場合と比べ退院時のアウトカムは改善しなかった。

・酸素投与はルーチンでされることが多いが、SpO2<90%でない限り酸素投与はすすめられない。酸素投与は、SpO2<90%、呼吸不全など低酸素血症のリスクがある場合のみ勧める。現在、AMI6650例を対象として酸素投与の影響を検証するDETO2X-AMI試験が進行中である。

【治療戦略】

・βblockerは、ショック・LOS・心不全などがなければ、24時間以内に開始。
・アトルバスタチン40−80mg、ロスバスタチン20−40mg(注:日本ではアトルバスタチン20mg、ロスバスタチン20mgが最大量)の高容量のスタチンは、コレステロール低下作用と多面的効果あり。
・ACE阻害薬/ARBは、特にLAD、左室機能不全、心不全への導入が望ましく、24時間以内に開始を。
・OMIがあればアルドステロン拮抗薬を。


(日本では例外的な場所を除いて、120分以内にカテができるところにたどりつけるので、STEMIであればPCI。bivalirudinは使えず、ticagrelorも出番がないので、ASA+クロピドグレルorプラスグレルのDAPT。PCI前後は未分画ヘパリンを使用。)

・ステントは、ベアメタルステントよりコバルトクロム・エベロリムス溶出性ステント(Xience)が最も安全性・有効性(心臓死、AMI、ステント血栓症の減少)が高い。

・非責任病変に対するPCIは議論が分かれる。AHA/ACCのガイドラインでは、非責任病変へのPCI(primaryPCIと同時に、またはstagedPCIで)はclassⅡb。現在、非責任病変に対するPCIのタイミング(primaryPCIと同時かstagedか)を検証するための大規模RCT(COMPLETE試験)が進行中である。

・血栓吸引は、TOTAL試験で180日時点の心血管死、心筋梗塞、心不全を減少させず、30日時点の脳梗塞をわずかではあるが有意に増加させた(0.7%vs0.3%)。AHA/ACCガイドラインでは、ルーチンでの血栓吸引は推奨されていない。

・PCIのアクセスは、大腿動脈より橈骨動脈が出血が少ない。ただ、メタ解析では手技時間はわずかに(2分)増加することが示されている。

【抗血栓療法】
・腸溶性でないアスピリン(=バイアスピリンはダメ)162−325mgの投与。

・維持量は81−325mg。ただし、チカグレロル(ブリリンタ)とプラスグレル(エフィエント)を併用するときは、アスピリンは81mgがよい(注:日本では、ブリリンタはプラビックスとエフィエント(とパナルジン)が使えない時だけ使用可、なので出番なし)。クロピドグレル(プラビックス)を併用するときの至適容量は不明。

・PCI時に速やかにP2Y12阻害薬(プラビックス、エフィエント、ブリリンタ)を投与し、少なくとも1年間は継続すること。

・エフィエントとブリリンタのPCI前のローディングは、効果がなかった。

・プラビックスの効果はCYP2C19に依存する。

・ワルファリンとDAPTの3剤併用は、心房細動、機械弁、静脈血栓塞栓症の際に推奨されるが、出血リスクは増加するため極力短い方がいい。WOEST試験では、抗凝固薬+プラビックスが3剤併用より塞栓リスクを増加させず、出血リスクを低下させた(ハザード比:0.36、95%CI:0.26−0.50)。

・PIONEER AF-PCI試験では、ワーファリンとDAPTの3剤併用、リバロキサバン(イグザレルト)低容量とプラビックスの2剤併用、イグザレルト超低容量(2.5mg)とDAPTの3剤併用の3群に分け、有効性と安全性が検証された。どの群でも心血管死、心筋梗塞、脳梗塞に差はなかったが、出血リスクは、イグザレルトの低容量群と超低容量群で有意に減少した。

来院からフロセミド静注までの時間の短縮が、心不全の院内死亡率を改善する

ime-to-Furosemide Treatment and Mortality in Patients Hospitalized With Acute Heart Failure
J Am Coll Cardiol. 2017;69(25):3042–3051

◇この論文のPECOは?
P:急性心不全
E:D2Ftime60分未満(early群)
C:D2Ftime60分以上(non-early群)
O:院内死亡率

D2Ftime:病院到着からフロセミド静注までの時間

組み入れ基準:病院到着から3時間以内に急性心不全の診断がついた患者、24時間以内にフロセミドが静注されていること
除外基準:透析、AMIなど

<デザイン、セッティング>
・前向きコホート研究
・2014年8月〜2015年12月
・1291例(early群:481例、non-early群:810例)
・ロジスティック回帰

<患者背景>

(本文から引用)
early群の方が、救急車利用、うっ血の症候(下腿浮腫、頸静脈怒張など)が多く、D2Ftimeが短縮しそうな要因がある。心房細動はnon-earlyで多い。EF、腎機能、Nohria-Stevenson分類に群間差はない。

<結果>

(本文から引用)
60分未満のフロミセミドの静注により院内死亡率は低下。


(本文から引用)
100分ぐらいのところにひとつピークがある。

◇感想
急性心不全患者で、来院から60分以内にフロセミドを静注できた群は、それよりも時間がかかった群に比べて院内死亡率が低い。

Figure3をみると100分ぐらいのところにピークがあって、右肩上がりになっていない。左側の山の群と右側のなだらかな右肩上がりの群は、そもそも患者の質が違うんじゃないかな。characteristicsをみてもはっきりとはわからないけど、なんかそんな気がする。だから、いくら交絡を調整しても、そもそも母集団が違っているから比較ができないんじゃないかな。

ただ、100分以内でみると時間経過とともに院内死亡率が上昇しているので、早く心不全と診断してフロセミドを静注することは良いアウトカムに繋がりそうではある。まあ、迅速かつ的確な診断と早期の治療開始が重要ということで。

Deferred Stenting (二期的PCI)は梗塞サイズ、EFを改善しない

Myocardial Damage in Patients With Deferred Stenting After STEMI: A DANAMI-3-DEFER Substudy.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(23):2794-2804.

primaryPCIでステント留置を避けた場合、冠血流の改善や心筋障害が減少することが報告されている。

DAMANI-3-DEFER試験は、primaryPCIの際に通常通りステントを留置する群と、急性期はPOBAのみでステント留置を行わず、数日後に改めてステントを留置する群に分け、臨床的なアウトカムが改善するか検証したRCTである。しかし、42ヶ月後の全死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、計画されていない責任血管の再血行再建は、両群間で統計学的な差はなかった。

これはそのRCTのサブスタディである。

◇この論文のPECOは?
P:STEMI
E:primaryPCIの際にPOBAまで行い、48時間後にステントを留置する(Deferred Stenting)
C:primaryPCIの際にステントを留置する(Conventional Stenting)
O:心臓MRI(CMR)で測定した硬塞サイズ

<デザイン、セッティング>
・前向き(RCTのサブスタディ)
・510例 (もとの試験は1215例)
・急性期と90日後にCMRを撮像
・交絡因子の調整:COX比例ハザードモデル

CMRは退院前と、90日後に撮像して、急性と最終の硬塞サイズ、心筋サルベージインデックス(梗塞心筋量/還流域の心筋量)を調べる。

<患者背景>

(本文から引用)
両群間で差なし。症状からPCIまでの時間にも差はない。


(本文から引用)
Deferred Stentingの方が、ステント長が短い。最終的なTIMI分類に有意差はないが、Deferred StentingでもTIMIゼロ、TIMI1がある。

<結果>

(本文から引用)
急性期のCMRでEFのみ有意差がついているが、90日後のCMRでは硬塞サイズ、心筋サルベージインデックス、EF、LVEDVに差はない。


(本文から引用)
ステント長が24mmより長くなると、Defer betterになるが、そもそもprimary endpointに差が付いておらず、post hoc解析であり、信頼区間も広い。

◇感想
DANAMI-3-DEFER試験でDeferred Stentingによる臨床的アウトカムは認められず、心臓MRIでも梗塞サイズの減少やEFの改善などは認められなかった。

post hoc解析ではステント長が長くなると、Deferred Stentingに良い傾向があった。確かに、ステント長はslow flow/no-reflowの予測因子と言われているため、過去の報告に矛盾はしない。まあそうは言っても、二期的にPCIをやるのは医療経済的にもよろしくないので、十分な血管内腔が確保されていて解離がないなら、そのままステントを入れないって選択肢の方が良さそうだけど。

トルバプタンとフロセミド 心不全の症状改善効果は同じ

Efficacy and Safety of Tolvaptan in Patients Hospitalized With Acute Heart Failure.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(11):1399-1406.

◇この論文のPICOはなにか
P:急性心不全
I:トルバプタン30mg/日の内服
C:プラセボの内服
O:24時間以内に呼吸困難が中等度以上改善した患者の割合(7-point Likert scaleで評価)

inclusion criteria:安静時または軽労作で呼吸困難がある心不全、BNP>400pg/ml、血清Na140mEq/L以下
exclusion criteria:低血圧(SBP<90mmHg)、高度腎機能障害(Cr>3.5mg/dl)、血液透析

◇試験の概要
地域:米国
観察期間:30日
盲検化:二重盲検
必要症例数:250例
症例数:257例(トルバプタン群129例、プラセボ群128例)
追跡率:97.7%(追跡不能と同意撤回が計6例)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(大塚製薬)

◇患者背景

(本文から引用)
EF30%と心機能は悪く、BNPも1400台と高く、普段のフロセミドの使用量も多め。腎機能も悪め。

◇結果

(本文から引用)
トルバプタンを内服すると尿はよく出る。でも、3日たつと差は薄まる。


たくさん尿が出ても、症状はサムスカを使わない場合と変わらない。いずれの時点でも有意差なし。

30日後の再入院+死亡、30日死亡率ともに差はなかった。

◇感想
EVEREST試験では、急性心不全に対するトルバプタンの使用は、10ヶ月後の死亡率も再入院も改善しなかったが、症状はトルバプタン群で早期に改善する症例が多かった。

このTACTICS-HF試験は、その症状をエンドポイントに検証した試験である。尿量はやはりトルバプタン群で多く、早期から体重も減っていたが、症状はフロセミド単独と変わりはなかった。つまり、水はよく出すが、症状改善効果はフロセミドと変わりがないということ。

重症心不全でサムスカを使って良くなるケースもあるが、そんなに多用する薬じゃない。フロセミドと同程度に安ければいくらでも使っていいと思うが、高いけど症状改善効果は安い薬と変わらず予後が良くなるわけでもないというと、多くの症例には使う理由がない。

ST上昇型心筋梗塞 予後の性差

Infarct size, left ventricular function, and prognosis in women compared to men after primary percutaneous coronary intervention in ST-segment elevation myocardial infarction: results from an individual patient-level pooled analysis of 10 randomized trials.
Eur Heart J. 2017 Jun 1;38(21):1656-1663.

◇論文のPICOはなにか
P:primaryPCIが行われたSTEMI患者
E/C:男性と女性
O:全死亡と心不全入院

primary PCIが行われたSTEMI患者を対象とし、1ヶ月以内にMRIもしくはSPECT(テクネシウム)で梗塞サイズが評価された10のRCTを解析に組み入れた。すべての患者は6ヶ月以上フォローされており、死亡や心不全入院について評価されている。

◇患者背景

(本文から引用)
女性の方が、年齢が高い。糖尿病が多い。責任病変の部位や治療前のTIMI分類に差はないけど、最終造影がTIMI3の割合が若干少ない。発症から再還流までの時間が長い。


(本文から引用)
女性の方が、最終造影がTIMI3の割合が少なく、発症から再還流までの時間が長いので、硬塞サイズが大きくなりそうだけど、そうでもない。

◇結果
フォローアップ期間は352日(中央値)。


(本文から引用)
年齢、糖尿病などの併存疾患などで調整しても、女性のハザード比は約2倍。


(本文から引用)
女性では、心不全入院も死亡も増える。心筋梗塞の再発に差はない。

◇感想
女性だと、再還流までの時間が長くなる傾向があるが、硬塞サイズに性差はなかった。しかし、退院後1年間で、心不全入院や死亡は男性の2倍多い。女性の方がHFpEFが多いということだろう。

心筋梗塞の再発には性差はないので、死亡は心不全死が増えていると考えられる。もしかしたら不整脈も増えるのかもしれない。

心不全のない心筋梗塞 1年後の生存率とβ遮断薬

β-Blockers and Mortality After Acute Myocardial Infarction in Patients Without Heart Failure or Ventricular Dysfunction
J Am Coll Cardiol. 2017;69(22):2710-2720.

◇この論文のPECOは?
P:AMI(STEMIとNSTEMI)
E/C:β遮断薬内服の有無
O:1年後の死亡率

<デザイン、セッティング>
・イギリス
・2007年から2013年のデータ
・前向きコホート研究
・179810例
・院内死亡、すでにβblockerが処方されている、心不全、LVEF<30%、ループ利尿薬の使用、100歳以上は除外
・観察期間:1年
・プロペンシティスコアマッチ

<患者背景>


(本文から引用)
トロポニンのピーク値が低い。CAGをやってない症例も多い。冠動脈インターベンションが施行されたのは半分程度。

<結果>

(本文から引用)
STEMI、NSTEMIにかかわらず、β遮断薬の効果なし。

◇感想
AMIに対するβ遮断薬は、ガイドラインによって推奨度が異なる。AHA/ACCではすべてAMI患者に推奨されており、ESCでは心不全や左室収縮不全がない症例ではclassⅡaである。

心不全や左室収縮不全のない症例を対象にβ遮断薬の効果を検証したRCTはない。このデータは約18万人の前向きコホート研究なので、β遮断薬の効果を調べるにはパワーは十分と思われる。

患者背景についてだが、トロポニンのピークの中央値は低く、ほんとに軽いAMIが多い。この結果を、たとえばピークCKが2000ぐらいの心不全がないAMIにも適応できるのかはわからない。そういう患者でもβ遮断薬の効果がないと言っていいのかどうなのか。

少なくとも、β遮断薬が予後を悪化させているわけではないので、血圧や心拍数が許容できるなら処方していても悪くないし、血圧や心拍数が低いのにあえて入れる必要はないということだろう。

心機能が保たれたDCMでも、心臓MRIで遅延造影があると予後は悪い

ssociation Between Midwall Late Gadolinium Enhancement and Sudden Cardiac Death in Patients With Dilated Cardiomyopathy and Mild and Moderate Left Ventricular Systolic Dysfunction
Circulation. 2017;135:2106-2115

◇この論文のPECOは?
P:LVEF≧40%のDCM
E/C:MRIでの遅延造影の有無
O:心臓突然死(SCD)、蘇生したSCD

<デザイン、セッティング>
・前向き
・399例
・観察期間:4.6年(中央値)
・比例ハザードモデル

<患者背景>

(本文から引用)

<結果>

(本文から引用)

◇感想
心臓MRIでガドリニウムによる遅延造影(LGE:late gadolinium enhancement)は、予後の悪化と関連がある(Circulation 2009;120:2069-2076)。DCMでは、約30%でLGEがあると言われている。

EF35%以下の虚血性心筋症では、ICDにより死亡率が有意に改善することが示されている(NEJM2002;346:877−883)。しかし、非虚血を対象としたDANISH試験ではSCDは減らしたが、全死亡に差はなかった(NEJM2016;375:1221-1230)。

EF40%以上のDCMで、LGEを認める症例では、SCDまたはそれと同程度のイベントが9倍に上昇する。これらの症例に対しICDを植えこむことで生命予後が改善するかどうかは、今後のRCTが待たれる。

2型糖尿病への早期介入とメトホルミンの重要性

2型糖尿病では、HbA1cの上昇は心血管疾患や死亡を増加と関連があり、HbA1cが1%上昇するごとに、心血管疾患の発症が18%増える(1)。

HbA1cを低下させることが微小血管障害の抑制に有効であるが、HbA1cを下げれば大血管障害を抑制できるかというと、必ずしもそうではない。UKPDSでは、発症早期の2型糖尿病に対し厳格な血糖コントロールを行うことで、全死亡を有意に減少させたが、ACCORD試験、VDAT試験、ADVANCE試験など他のRCTでは、厳格な血糖コントロールの有効性は示されなかった(2−5)。

UKPDSでは発症早期の2型糖尿病を対象としており、その他のRCTはそれよりも罹患期間が長かった。つまり、発症早期に厳格な血糖コントロールをすることで心血管イベントは抑えられるが、動脈硬化がある程度進行してしまった糖尿病では、厳格な血糖コントロールは心血管イベントの抑制に繋がらない。

また、厳格な血糖コントロールの効果は数年のスパンで行う介入研究では現れないが、介入研究終了後に血糖コントロールに差がなくなっても、10年単位のスパンでみると心血管イベントを抑制し始める。これは”metabolic memory”、”legacy effect”と呼ばれている。

罹患期間が長い症例、高齢者では重大な低血糖を起こすリスクが高く、厳格な血糖コントロールが、生命予後を悪化させる可能性があるため、注意を要する。

薬剤に関しては、RCTで全死亡を抑制させることができたものは2つ。メトホルミンとエンパグリフロジンで、メトホルミンは一次予防、エンパグリフロジンは主に二次予防を対象とした試験であった。

メトホルミンは、血糖効果作用(FGBが20%、HbA1cが1.5%低下)、体重増加や低血糖がないこと、忍容性の高さ、コストから2型糖尿病の第一選択薬として推奨されている。

メトホルミンは、肝臓からのグルコース放出を抑制したり、筋肉や肝臓へ作用しインスリンを介した糖の利用を高める効果がある。また、脂質への作用もあり、血中中性脂肪、遊離脂肪酸、LDLが低下し、ごくわずかだがHDLが上昇するという、副次的な効果がある。

日本人は、肥満によるインスリン抵抗性がメインの糖尿病ではなく、肥満のないインスリン分泌不全の糖尿病が多いためか、あるいは乳酸アシドーシスを忌避されてか、実臨床ではメトホルミンは第一選択になっていない。おそらく、DPP4阻害薬が経口血糖降下薬として一番処方されている薬剤だろう。

欧米人ほどインスリン抵抗性が高くないアジア人でもメトホルミンの有効性は確認されている。中国人の2型糖尿病304例を対象に、メトホルミンとSU薬に無作為に割り付けたSPREAD-DIMCAD試験(平均年齢63際、観察期間5年)で、HbA1c7.0%と両群で差を認めなかったが、メトホルミン群で心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞、冠動脈血行再建)の有意な低下を認めた。

また、多施設の入院データベースを利用したレトロスペクティブなデータではあるが、日本人でもSUと比べメトホルミンで有意に心血管イベント(狭心症、心筋梗塞、心不全、脳梗塞、頭蓋内出血)を抑制していた。そして、SUに対する優位性が示されたのはメトホルミンのみで、αGIやDPP-4阻害薬でもSUと差はなかった(7)。

メトホルミンと比べSUで心不全が増える理由としては、体重増加があげられる(8)。その点では、DPP-4阻害薬よりメトホルミンの方が望ましく、さらにHbA1c低下作用(これが心血管イベント抑制につながるとは言えないが)、コストの面ではメトホルミンに軍配があがる(9)。

メトホルミンを使用する上で注意すべき副作用として、もっとも多いのは消化器症状。金属の味がする、食欲低下、嘔気、腹部不快感、下痢など。これらの症状は軽度、一過性で、減量・中止により消失する。

メトホルミンはVitB12の吸収も抑えるため、5−10%で血清VitB12濃度の減少が見られるが、巨赤芽球性貧血はまれである。巨赤芽球性貧血に先行し末梢神経障害が起こることがあり、糖尿病性神経障害と誤診されることがある。

また、よく知られた副作用には、乳酸アシドーシスがある。症状は非特異的で、食欲不振、嘔気・嘔吐、腹痛、傾眠、過換気、低血圧である。血中乳酸値は重要ではない。高齢だからといって乳酸アシドーシスが増えるわけではなく、腎機能によるものでもない。腎機能障害があっても安全に使えるというデータもある。ただ、腎機能がどこまで悪いとだめなのかわからないが、すくなくともeGFR30以下はダメ。30−45は半分に減量が望ましい(10、11)。ただ、日本人でのデータはないので、添付文書には従った方が無難ではある。

■reference
(1)Ann Intern Med. 2004;141(6):421-31.
(2)Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65.
(3)Diabetes Care. 2014; 37: 634-43.
(4)N Engl J Med 2009; 360: 129-139.
(5)N Engl J Med 2008; 358: 2560-2572.
(6)Di­abetes Care 2013; 36: 1304-1311
(7)BMC Endocrine Disorders 2015, 15:49
(8)J Am Heart Assoc. 2017;6(4):e005379.
(9)Ann Intern Med. 2016;164(11):740-51
(10)Cochrane:Risk of fatal and nonfatal lactic acidosis with metformin use in type 2 diabetes mellitus
(11)Ann Intern Med. 2017;166(3):191-200.
UoToDate:Metformin in the treatment of adults with type 2 diabetes mellitus(last updated: Apr 06, 2017.)

エゼチミブはTRS2°Pを参考に

IMPROVE-IT試験では、冠動脈疾患二次予防において、シンバスタチンにエゼチミブを加えることで、心血管イベントが抑制することが示された。

7年間の観察期間で、心臓血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院、無作為化から30日以降の再血行再建、非致死的脳梗塞の複合エンドポイントが、エゼチミブ群34.7%、シンバスタチン単独群32.7%と、ARR2%とわずかであるが、統計学的には有意な差を認めた。


(N Engl J Med. 2015;372(25):2387-97より引用)

死亡率に差はないが、非致死的心筋梗塞、脳梗塞、血行再建を減らしている。

では、どのような患者でより効果が高いのか。

Atherothrombotic Risk Stratification and Ezetimibe for Secondary Prevention.
J Am Coll Cardiol. 2017;69(8):911-921

ここでは、TRS2°Pというスコアが使われている。慢性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、陳旧性脳梗塞、CABGの既往、末梢動脈疾患、eGFR<60、喫煙の9つの項目をいくつ満たすかというもの。最小はゼロ、最大で9点ということになる。

0−1点がlow、2点がintermediate、3点以上がhighというカテゴリに分けられる。TRS2°P≧3点であれば、エゼチミブによるリスク減少が期待できる。


(本文から引用)

IMPROVE-IT試験では、TRS2°P:1点は45%、2点は30%、3点以上は25%であった。自分が診ている患者だと、0−1点というのはそれほど多くない気がする。


(本文から引用)

Cが心筋梗塞、Dが脳梗塞、Aが心血管死+心筋梗塞+脳梗塞。単純な足し算・引き算はできないが、TRS2°Pが3点以上のハイスコアでも心血管死は減ってなさそう。

TRS2°Pが0−2点なら、エゼチミブはいらない。3点以上のハイリスクでは、スタチンを十分量内服してそれでもリスクが高いと考えるなら、エゼチミブを考慮してもいいだろう。