【総説】深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症 Lancet

Deep vein thrombosis and pulmonary embolism
Lancet. 2016 Jun 30. [Epub ahead of print]

深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PE)、それは集合的に静脈血栓塞栓症(VTE)と言われ、世界的にみられる疾患である。DVTとPEの診断に役立つ検査は、臨床の決定のルールとDダイマー測定である。VTEらしくないDダイマーが陰性の患者では、画像と抗凝固療法を安全に差し控えることができる。それ以外の患者では、DVTを疑う場合は下肢静脈エコーを、PEを疑う場合にはCTを行うべきである。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は、ワルファリンより出血が少なく使用法も簡便であり、VTEに対する治療の第一選択薬である。血栓溶解療法は、血行動態が不安定なPEにのみ限定すべきである。抗凝固療法は、再発予防のために少なくとも3ヶ月は継続すべきで、VTEの原因が不明な場合や持続する要因による二次性の場合は、3ヶ月以上の抗凝固療法を考慮すべきである。

◇疫学
・世界中で年間1000万件
・血管疾患では、心筋梗塞、脳梗塞に続く3番目の多さ
・経済的負担は、米国では年間70−100億ドル
・年齢とともに増加し、80歳以上では100人に1人
・発症率 黒人>白人>アジア人
・リスクに男女差なし(妊娠とエストロゲン療法を除けば、男性は女性の2倍起こしやすい)
・VTEの30%は10年以内に再発する
・DVTの20−50%が血栓後症候群に、PEの0.1−4.0%が慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に
・VTEの1/3−1/2は原因不明
・強力なリスクファクターは手術、不動、悪性腫瘍
・大きな整形外科手術では、予防していても1%でVTEを発症する
・全VTE患者のうち、20%が悪性腫瘍、不動と手術は15%ずつ
・最も頻度が高い遺伝子変異は、第Ⅴ因子Leiden変異とプロトロンビン遺伝子変異(日本人にはみられない)

◇診断
臨床症状
・突然の呼吸困難、呼吸困難の増悪、胸痛、失神、めまい、頻脈、頻呼吸
・症状だけで診断は無理
・胸部レントゲン、心電図、血ガスでは特異的な所見なし
・症候性PEの70%にDVTあり
・症候性EVTの1/3に無症候性PEあり

臨床的なそれっぽさとDダイマー
このスコアがよく用いられる

・Wells’ score for deep vein thrombosis
  3点以上 ⇨ DVTらしい

・Wells’ score for pulmonary embolism
  original:5点以上 ⇨ PEらしい
  simplified:2点以上 ⇨ PEらしい

・Revised Geneva score for pulmonary embolism
  original:11点以上 ⇨ PEらしい
  simplified:5点以上 ⇨ PEらしい

・これだとVTEの除外には使えないので、Dダイマーも測定すること
・これらのスコアが低く、Dダイマーが正常値なら、その後の3ヶ月間でVTEを発症する確率は1%未満

・年齢とともにDダイマーは上昇する
・50歳以上の域値は、年齢×10μg/L
・500μg/Lを域値にしたときと比べ、同等の感度で特異度は高くなる

DVTの画像診断
・圧迫法による下肢静脈エコーがゴールドスタンダード
・鼠径から下腿まで描出し、全体を評価
・さらに鼠径と膝窩の圧迫法を行う
・1週間後に下腿のDVTが進展していないか再度エコーを行う
・骨盤内やIVCの血栓はCTもしくはMRIで評価する

PEの画像診断
・CT肺動脈造影がゴールドスタンダード
・腎機能障害、造影剤アレルギー、妊婦では肺換気血流シンチを

◇治療
抗凝固療法
・治療期間を3つに分ける
  急性期:発症5−10日まで
  維持期:3−6ヶ月まで
  延長期:それ以上
・急性期に使用できるのは、低分子ヘパリン、フォンダパリヌクス、未分画ヘパリン、経口Xa阻害薬(リバロキサバン、アピキサバン)
・未分画ヘパリンはAPTTをみて容量調整
・低分子ヘパリンは体重による容量設定で、モニタリングは不要
・安全性、有効性の面で未分画ヘパリンより低分子ヘパリンが好まれる
・腎機能障害(CCr<30ml/min)には低分子ヘパリンやフォンダパリヌクスより未分画ヘパリン
・ワルファリンは少なくとも5日間併用し、INRが2.0を超えたら、ヘパリンまたはフォンダパリヌクスは中止する
・INRは2.0−3.0で維持する
・ダビガトランとエドキサバンはヘパリンと5日間併用
・リバロキサバンとアピキサバンは併用しない
・高容量:リバロキサバンは3週間、アピキサバンは7日間
・DOACは大出血を39%減らした
・どのDOACがいいか明確なエビデンスなし
・中等度の腎機能障害にはダビガトランよりXa阻害薬
・高度の腎機能障害にはDOACよりワルファリン
・活動性の悪性腫瘍にはワルファリンより低分子ヘパリン
・活動性の悪性腫瘍で低分子ヘパリンとDOACは比較されていないので、低分子ヘパリンが第一選択(臨床試験が現在進行中)
・ワルファリンとDOACは胎児への悪影響になりえる
・ワルファリンは授乳婦には安全
・DOACは授乳婦にもダメ

外来治療
・血行動態が安定し死亡リスクが低いなら、外来での治療が可能
・30日死亡率はPESI(Pulmonary Embolism Severity Index)がlowなら1%、highなら11%

血栓溶解療法
・血行動態が不安定だと、死亡率は高い
・PEITHO試験では血行動態が安定した右室機能不全があるPEを対象とし、プラセボと比較し、死亡率は変わらず、大出血を9%、頭蓋内出血を2%増加させた
・腸骨大腿部の深部静脈血栓にはカテーテルによる血栓溶解療法を考慮(24ヶ月時点での血栓後症候群を減らすが、リスクベネフィット比は不明確)

下大静脈フィルター
・抗凝固療法の絶対的な禁忌には適応がある
・活動性の出血、適切な抗凝固療法下での再発
・IVCフィルターはPEの再発を減らさない
・恒久型より回収可能型フィルターが好ましい
・回収可能型は回収できないこともある

弾性ストッキング
・段階式弾性ストッキングは血栓後症候群を減らす
・しかし、RCTで膝までの段階式弾性ストッキングのベネフィットが示されなかった
・近位DVTでの下肢腫脹を抑えるためには考慮すべき

治療期間

・初回VTEなら3ヶ月は続ける
・原因不明のVTEの再発なら3ヶ月以上続ける
・初回のVTEで原因が不明なら3ヶ月の時点で再評価(Dダイマー+下肢近位部エコー、しかしこの有効性は不明)
・抗凝固療法中のDダイマーが繰り返し正常でも、中止1ヶ月後の再発率は3−7%
・活動性の悪性腫瘍だと抗凝固療法を行なっていても8%/6ヶ月の再発率
・下腿のみの血栓、亜区域性のPEの有病率や抗凝固療法のリスクベネフィットは議論がある

抗凝固療法の延長
・ワルファリン、アピキサバン、ダビガトランはプラセボより、VTE再発を80−90%減らすが、出血を2−5倍に増やす
・アスピリンもプラセボと比較し、30%再発を減らす
・抗凝固薬とアスピリンの出血リスクは同等だが、再発への有効性は抗凝固薬が高い
・アスピリンは代替薬にならない
・DOAC間の直接比較データはない

◇感想・コメント
Dダイマーのカットオフは0.5μg/mlだと思っていましたが、年齢調整したカットオフは同等の感度で特異度は高くなるというのは、初めて知りました。これは使えそうです。

非スタチン療法のガイドライン(ACC)要約

Role of Nonstatin Therapies for Low-Density Lipoprotein Cholesterol Lowering in Management of Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk
JAMA Cardiol. 2016 Nov 30. [Epub ahead of print]

これは、ACCの動脈硬化性心血管疾患に対する非スタチン療法のレコメンデーションです。以下の4つのグループでは、もちろん最大量のスタチンの投与が推奨されており、以下の非スタチン療法を考慮する前に、スタチンのアドヒアランスを向上させたり、生活習慣に介入したり、他のリスクを是正したり、ということが推奨されています。

それにしても、エゼチミブのエビデンスといえばIMPROVE-IT試験しかなく、それなのにエゼチミブが推されすぎている感があります。

IMPROVE-IT試験の結果は微妙で、一番大きな疑問は対照に普通のスタチンを使用していることで、有意に心血管イベント(心血管死から不安定狭心症までいろんなエンドポイントの複合)を減らしたといっても、34%から32%に約2%低下させたにすぎず、Nが大きいために出た結果だと思います。

日本人だと、スタチンを使ってLDLコレステロールが下がらない人はそういないと思うので、このガイドラインが推奨するようにエゼチミブが必要になる人は多くないでしょう。家族性高コレステロール血症ではエゼチミブやPCSK9阻害薬の出番はあるかもしれませんが、スタチンの最大量投与が前提で、適応は慎重に考えたいものです。

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1.安定した動脈硬化性心血管疾患(二次予防)
スタチン使用下でLDLコレステロールの少なくとも50%の減少が達成できていなければ、まずエゼチミブを考慮すべきである。それでも目標を達成できない場合には、エゼチミブにPCSK9阻害薬を変更、または追加することは妥当である。動脈硬化性心血管疾患で、かつハイリスクの患者は、上記の治療でLDLコレステロールを少なくとも50%減少させ、70mg/dl未満にすべきである。

2.LDLコレステロールが190mg/dl以上(一次予防)
LDLコレステロールを50%減少(LDLコレステロール100mg/dl未満)させることが推奨され、付加的なLDLコレステロール低下には、まずエゼチミブまたはPCSK9阻害薬を考慮する。脂質の専門医と栄養士に紹介することが望ましく、特に家族性高コレステロール血症のホモ接合体またはベースラインのLDLコレステロールが250mg/dl以上の場合で推奨される。

3.40−75歳の糖尿病(一次予防)
LDLコレステロールの50%の減少(LDLコレステロール100mg/dl未満、またはnonHDLコレステロール130mg/dl未満)が推奨される。この患者群では、PCSK9阻害薬の使用は推奨されず、エゼチミブが第一選択である。中性脂肪が300mg/dl未満のエゼチミブ禁忌症例ではレジンが推奨される。

4.40−75歳で、10年間のCVDイベントが7.5%以下(一次予防、糖尿病なし)
LDLコレステロール100mg/dl以上、あるいはハイリスク症例で、中等度の強度のスタチンで治療しているなら、スタチンの強度を上げることが推奨される。目標が達成できないなら、エゼチミブを考慮する。PCSK9阻害薬は推奨されない。

僧帽弁逸脱 僧帽弁形成術は置換術よりも周術期死亡率・長期生存率が良い

Twenty-Year Outcome after Mitral Repair Versus Replacement for Severe Degenerative Mitral Regurgitation. Analysis of a Large, Prospective, Multicenter International Registry.
Circulation. 2016 Nov 29. [Epub ahead of print]

《要約》
背景
僧帽弁形成術は、ガイドラインでは置換術より優先され、また退行性の僧帽弁閉鎖不全症(MR)における外科的治療の重要な決定要因である。現在の推奨を支持するエビデンスレベルは低く、最近のデータからはその有効性について疑問がある。したがって、この研究の目的は、退行性MRに対する僧帽弁形成術と置換術の超長期のアウトカムを解析することである。

方法
MIDAは、退行性MRが登録された多施設レジストリーで、欧州と米国の6施設のデータである。我々は、僧帽弁形成術1709例と置換術213例を、プロペンシティスコアとinverse probability-of-treatment weighting(IPTW法)を用いて解析した。

結果
登録時では、僧帽弁形成術を行なった患者では置換術を行なった患者よりも若く、併存疾患が多く、後尖の逸脱が多かった。プロペンシティスコアマッチングとIPTW後では、2つのグループはバランスがとれており、標準差異は適切なマッチとされてる10%以下であった。周術期死亡率(術後30日以内の死亡もくしは手術と同一の入院期間での死亡)は、全体でもプロペンシティスコアがマッチした集団でも、僧帽弁置換術より形成術で低かった(それぞれ、1.3%vs4.7%; P<0.001、0.2%vs4.4%; P<0.001)。平均フォローアップ期間は9.2年、552例の死亡が観察され、そのうち207が心血管死であった。全体でも、プロペンシティスコアがマッチした集団でも、20年生存率は僧帽弁置換術より形成術で良かった(それぞれ、46%vs23%; P<0.001, 41%vs24%; P<0.001)。僧帽弁形成術の優位性は、年齢、性別や他の階層でも同様に認められた。僧帽弁形成術は、弁に関連した合併症や再手術の減少とも関連があった。

結論
退行性MRの患者において、僧帽弁形成術は置換術と比較し、周術期死亡率の減少・長期生存率の上昇・弁に関連した合併症の減少と関連があった。

◇この論文のPECOは?
P:退行性僧帽弁閉鎖不全症
E:僧帽弁形成術
C:僧帽弁置換術
O:全死亡
secondary outcomeは周術期死亡率、弁に関連した合併症(再手術、血栓塞栓症、大手術、感染性心内膜炎)

◇デザイン、対象、観察期間
・前向き
・MIDAレジストリーには、虚血性MR、大動脈疾患の合併、先天性心疾患、僧帽弁狭窄症、弁手術の既往は含まれていない。
・プロペンシティスコアマッチ、inverse probability-of-treatment weighting(IPTW法)
・1922例(僧帽弁形成術:1709例、僧帽弁置換術:213例)
・観察期間:平均9.2年

characteristics
置換術の方でも後尖の逸脱の割合が多い。EFは形成術で統計学的に少し低いがエコー所見なので誤差範囲。

◇結果
ps
iptw
プロペンシティスコアマッチングでもIPTW法でも、僧帽弁形成術で生存率がよい。

プロペンシティスコアがマッチした集団(僧帽弁形成術410例 vs 置換術205例)で、
・周術期死亡率
  0.2% vs 4.4%, p<0.001
・10年生存率
  76% vs 57%, p<0.001
・20年生存率
  41% vs 24%, p<0.001
・twenty-year freedom from 3+MR after MV repair
  85% [95%CI:82%-88%]
・twenty-year freedom from valve-related events
  83% vs 50%, p<0.001

◇感想
僧帽弁逸脱の手術は、AHAやESCのガイドラインでは僧帽弁形成術が推奨されているが、その根拠は単施設の観察研究が元になっている。これまでの後ろ向きコホート研究やメタ解析でも、僧帽弁置換術より形成術の方が、周術期死亡率や長期生存率がよいという報告がほとんどらしく、このMIDAレジストリーという前向きコホート研究でも、同様の結果が示された(生存率に差がないという報告もある。J Thorac Cardiovasc Surg. 2008 Apr;135(4):885-93)。

僧帽弁閉鎖不全症の原因が逸脱であること、前尖より後尖の逸脱、硬化病変が少ないなど形態的に僧帽弁形成術が可能であれば、形成術が望ましい。

CHA2DS2-VAScスコア2点以上では、PVI後の抗凝固療法中止により脳梗塞リスクが上昇する可能性

Assessment of Use vs Discontinuation of Oral Anticoagulation After Pulmonary Vein Isolation in Patients With Atrial Fibrillation
JAMA Cardiol. Published online November 23, 2016.

《要約》
重要性
肺静脈隔離(PVI)は心房細動患者に対する推奨された治療だが、脳梗塞リスクの低下をもたらすかどうかは明らかではない。

目的
PVI後に抗凝固療法を中止した患者の割合とCHA2DS2-VSAcスコア、PVI後の脳梗塞の予測因子の同定、ガイドラインに基づく抗凝固療法の有無での心血管イベントリスクを評価すること。

デザイン・セッティング・患者
Swedish national health registriesを用いて、後ろ向きコホート研究を行なった。2006年1月1日から2012年12月31日のデータで、平均フォローアップ期間は2.6年、心房細動でPVIが施行された1585例が対象である。データ解析は2015年1月1日から2016年4月30日に行なわれた。

暴露
ワルファリン

アウトカム
虚血性脳梗塞、頭蓋内出血、死亡

結果
この集団は1585例で、男性が73.0%、年齢59±9.4歳、CHA2DS2-VAScスコア1.5±1.4だった。1585例のうち、1175例がPVI後1年以上フォローアップされた。360例は1年以内にワルファリンが中止された。CHA2DS2-VAScスコアが2点以上の患者のうち、ワルファリンを中止した患者では虚血性脳梗塞の発症リスクが、ワルファリンを継続した患者より高かった(5イベント/312年[1.6%/年]、4イベント/1192年[0.3%/年]、P=0.046)。CHA2DS2-VAScが2以上の患者や虚血性脳梗塞の既往がある患者では、ワルファリンが中止にあると虚血性脳梗塞の発症リスクが増加する(それぞれ、HR:4.6、95%CI:1.2−17.2、HR:13.7、95%CI:2.0−91.9)。

結論
これらの結果は、ハイリスクの患者、特に脳梗塞の既往がある患者において、PVI後にワルファリンを中止することは安全でないことを示唆している。

◇この論文のPECOは?
P:PVIを行なった心房細動患者
E/C:ワルファリンの中止、または継続
O:虚血性脳梗塞、頭蓋内出血、死亡

◇デザイン、対象、観察期間
・後ろ向き
・CHA2DS2-VAScスコア2点以上と脳梗塞の既往がある患者の脳梗塞リスクは、COX比例ハザードモデルを用いた。脳梗塞に関連した因子の算定には、ロジスティック回帰分析を行なった。
・1585例
・観察期間:平均2.6年

characteristics

◇結果
result

CHA2DS2-VAScスコアが0−1では、脳梗塞の発症率に差はなかった。

◇感想
CHA2DS2-VAScスコアが高ければ、内皮障害や繊維化が進んでいるし、心房細動の再発も起こりやすいと考えられるので、抗凝固療法を中止することで脳梗塞リスクが上昇するのは合点がいく。

PVI後3ヶ月は抗凝固療法を継続し、それ以降はCHA2DS2-VASc0−1なら、中止をしても脳梗塞のリスクは上昇しないかもしれない。

【レビュー】分子標的治療の心血管毒性

Cardiovascular Toxic Effects of Targeted Cancer Therapies
N Engl J Med 2016; 375:1457-1467

悪性腫瘍治療による心血管合併症の歴史
アントラサイクリンと放射線治療が心血管合併症の原因ということが知られている。アントラサイクリンは容量依存的に心毒性を示す。放射線治療は、特に胸部の場合、心筋、弁、心外膜、冠動脈への毒性がある。

抗HER2抗体
抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、HER2陽性乳癌の予後を改善した。しかし、ドキソルビシンやシクロホスファミドと併用した初期のデータでは、27%で症候性心不全や無症候性心機能障害を認めた。そのため、トラスツズマブ使用中は定期的な心機能評価が求められ、アントラサイクリンに続きトラスツズマブを使用する場合は、相乗的な心毒性を引き起こす可能性を念頭に置かなくてはならない。

トラスツズマブの心毒性についての認識が広がり、心機能がモニタリングされるようになったためか、現在では、症候性心不全は2−4%、心機能低下は3−19%と報告されている。

最近の臨床試験では、HER2陽性乳癌に対しパクリタキセルとトラスツズマブで治療した406例で、臨床的な心不全は2例(0.5%)、収縮不全は13例(3.2%)にしか起こらなかった。HER2陽性乳癌の10年間のフォローアップでは心機能低下は、パクリタキセル・シクロホスファミド・トラスツズマブを含んだレジメンに割り付けられた患者では9.4%、アントラサイクリンを含んだレジメンでは19.2%であった。

HER2を標的とした新しい治療が承認され、トラスツズマブとの併用も行われているが、その心毒性は十分明らかになっていない。

トラスツズマブの臨床試験では、心疾患や心不全が除外されているため、データベースから抽出したトラスツズマブに関連した心毒性は臨床試験のそれよりも多い。

アントラサイクリン使用後の心機能低下に対し、標準的な心不全治療を行うことでわずかな心機能改善が得られた報告もある。ただ、プラセボと比較していないため自然経過によるものかもしれない。トラスツズマブによる心筋症では、2/3で症状や心機能の改善を認めたが、1/3は心機能低下が持続した。

抗VEGF抗体
血管内皮増殖因子A(VEGFA)は腫瘍から分泌され、VEGF受容体に結合することで血管形成の重要な役割を果たす。抗VEGF抗体はいくつかの癌に対し、FDAから認可されている。抗VEGF抗体は、高血圧、血管毒性、心筋症など様々な心血管疾患との関連が報告されている。

ほぼすべての患者で、容量依存的で一過性に血圧が上昇する。ベバシズマブ(商品名:アバスチン)とスニチニブ(商品名:スーテント)は20−25%の血圧上昇が認められる。収縮期血圧と拡張期血圧のいずれにも影響がある。

VEGFは血管拡張物質であるNOとプロスタサイクリンを増加させ、エンドセリン1の産生を抑制する。VEGFは腎臓にも存在する。抗VEGF抗体が血管収縮を招き、糸球体機能を変化させることで、血圧が上昇するものと推測されている。

抗VEGF抗体は血管イベント(血栓症)と心筋症のリスクを増大させる。パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)とスニチニブは前向きのサーベイランスにおいて、9%で心機能が有意に低下し、1%で症候性心不全を認めた。

後ろ向きの研究では、27%で心血管毒性が認められ、血圧上昇を含めると心血管毒性が認められた症例は64%に上る。別の後ろ向きの研究ではスニチニブは心機能障害を28%で認め、うっ血性心不全になった症例は8%に上った。

チロシンキナーゼ阻害薬
イマチニブ(商品名:イレッサ)は最初のチロシンキナーゼ阻害薬である、慢性骨髄性白血病で活性化されるABL1キナーゼや、腸管間質腫瘍で活性化されるKITやPDGFRAを阻害することで、これらの悪性腫瘍を自然暦を変え、致死的な疾患から管理できる慢性疾患に変えた。CMLの5年生存率は90%を超えるようになった。

イマチニブ耐性となった患者に対し、新世代のチロシンキナーゼ阻害薬が開発され、first-lineの治療となった。

チロシンキナーゼ阻害薬も様々な心血管毒性があるが、イマチニブの心血管合併症は少ない。ダサチニブ(商品名:スプリセル)は肺高血圧と、ニロチニブ(商品名:タシグナ)とポナチニブ(商品名:アイクルシグ)は血管イベントと関連がある。

ポナチニブは血管イベントのため、米国の市場から消えた。

イブルチニブ(商品名:イムブルビカカプセル)はB細胞悪性腫瘍に対し効果が示されているが、3%に入院または侵襲的治療を要するgrade3以上の心房細動が出現する。イブルチニブの臨床試験では心毒性のスクリーニングがされていなかったので、その他の不整脈や無症候性心房細動が増えたかどうかは明らかではない。同様にトラメチニブ(商品名:メキニスト)は7%に心機能低下が報告されており、FDAから治療中は心臓のモニタリングを推奨されている。

その他
サリドマイドとレナリドミド(商品名:レブラミド)の2つの免疫調整薬は、静脈血栓塞栓症のリスクが高く、特に高容量のデキサメサゾンと併用するとリスクは増大する。免疫調整薬は動脈イベントとも関連があり、多発性骨髄腫に対するレナリドミドと高容量のデキサメサゾンの併用は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを増大させる。リスクの高い患者では、予防的抗凝固療法が勧められる。

カルフィルゾミブ(商品名:カイプロリス)は多発性骨髄腫に対し高い有効性があるが、静脈心血管合併症のリスクは高い。カルフィルゾミブ+レナリドミド+高容量デキサメサゾンとレナリドミド+高容量デキサメサゾンの有効性を比較した最近の臨床試験では、カルフィゾミブ群で心血管合併症(心不全、虚血性心疾患、静脈血栓塞栓症、高血圧症)が多かった。

免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体では、中止後に自己免疫性心筋炎を起こした症例が報告されており、マウスでは薬剤の中止後に心筋症と突然死を起こすことが報告されている。また、他剤との併用時の心血管における安全性は明らかではない。

cardiovascular-toxic-effect1
cardiovascular-toxic-effect2

左冠動脈主幹部の急性心筋梗塞 心電図診断

Prediction of acute left main coronary artery obstruction by 12-lead electrocardiography. ST segment elevation in lead aVR with less ST segment elevation in lead V(1).
J Am Coll Cardiol. 2001 Nov 1;38(5):1348-54.

《要約》
目的
左冠動脈主幹部閉塞の心電図的特徴を特定すること。

背景
左冠動脈主幹部閉塞は重大な血行動態の悪化を招き、予後不良である。そのため、左冠動脈主幹部閉塞の予測は適切な治療戦略を選択する上で重要である。

方法
左冠動脈主幹部の急性閉塞の連続16例(LMCA群)、左冠動脈前下行枝の急性閉塞46例(LAD群)、右冠動脈の急性閉塞24例(RCA群)の入院時心電図を調べた。

結果
aVR誘導でのST上昇(>0.05mV)は、LAD群やRCA群よりLMCA群で有意に多かった(LMCA88%、LAD43%、RCA8%)。aVR誘導でのST上昇は、LAD群よりLMCA群で有意に高かった(LMCA群0.16±0.13mV、LAD群0.04±0.10mV)。V1誘導でのST上昇は、LAD群よりLMCA群で有意に低かった(LMCA群0.00±0.21mV、LAD群0.14±0.11mV)。aVR誘導のST上昇がV1誘導のST上昇より大きい、もしくは同等の場合、感度81%、特異度80%でLMCA群と診断できる。aVR誘導と家壁誘導のST変化でLMCA群とRCA群を区別できる。左冠動脈主幹部の急性閉塞では、aVR誘導でのST上昇が高い群では、ST上昇が高くない群と比較し、死亡率が高い。

結論
V1誘導のST上昇が小さく、aVR誘導でST上昇していることは、左冠動脈主幹部閉塞である重要な予測因子である。左冠動脈主幹部の急性閉塞では、aVR誘導のST上昇は臨床的なアウトカムの予測因子でもある。

AがLMCA、BがLAD、CがRCA
ecg
aVRでST上昇があって、V1では上がっていない。

figure
V1だけではわからないので、aVRのST上昇と合わせて判断する。

プラスグレルとチカグレロルの直接比較 PRAGUE-18試験

Prasugrel Versus Ticagrelor in Patients With Acute Myocardial Infarction Treated With Primary Percutaneous Coronary InterventionMulticenter Randomized PRAGUE-18 Study
Circulation. 2016;134:1603-1612

《要約》
背景
プラスグレルとチカグレロルはクロピドグレルに対し高い有効性が示されているが、プラスグレルとチカグレロルの安全性と有効性の直接比較は行われていない。

方法
急性心筋梗塞(AMI)で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行された患者を対象に、プラスグレルとチカグレロルの安全性と有効性を比較した。14施設で、AMI1230例をPCI開始前にプラスグレルとチカグレロルに無作為に割り付けた。4%弱が心原性ショック、5.2%で人工呼吸器管理を行った。主要評価項目は、7日間での死亡、再梗塞、緊急標的血管血行再建、脳梗塞、輸血や入院期間の延長を要する出血の複合エンドポイントである。全フォローアップ期間は1年で、2017年に終了する。

結果
試験は、早期中止となった。プラスグレルとチカグレロルで、主要評価項目に有意差はなかった(4.0%vs4.1%、OR:0.98、95%CI:0.55−1.73)。主要評価項目の中で、どれも有意差はなかった。30日以内の副次評価項目(心血管死、非致死性心筋梗塞、脳梗塞)でも、プラスグレルとチカグレロルに有意差はなかった(2.7%vs2.5%、OR:1.06、95%CI:0.53-2.15)。

結論
こののプラスグレルとチカグレロルの比較試験は、PCIを施行したAMI急性期での梗塞イベントと出血イベントの予防において、一方の抗血小板薬はもう一方より、より有効もしくはより安全であるという仮説を支持しなかった。主要なアウトカムの発生率は似通っていたが、信頼区間は広かった。

◇この論文のPICOはなにか
P:急性心筋梗塞(STEMI、NSTEMI)
I/C:アスピリンに加え、プラスグレルまたはチカグレロルの内服
O:7日以内の全死亡、心筋梗塞の再発、脳梗塞、輸血や入院延長を要するような重大な出血、緊急標的血管再血行再建

プラスグレルは60mgでローディングして、維持容量は10mgを1日1回。76歳以上または60kg未満の場合は維持容量を5mgに減量する。

チカグレロルは180mgでローディングして、維持容量は90mgを1日2回。

inclusion criteria:緊急CAGの適応である症例

exclusion criteria:脳梗塞の既往、6ヶ月以内の重大な出血、長期の抗凝固療法を必要とする症例、クロピドグレル300mg以上の内服をしている症例、その他の抗血小板薬の内服(アスピリンと低容量クロピドグレルを除く)、76歳以上で体重60kg未満、中等度〜高度の肝障害、強力なCYP3A4阻害薬の使用、プラスグレルまたはチカグレロルに対するアレルギー

◇baselineは同等か
characteristics1
平均61歳で、3/4が男性。STEMIが90%で、他は脚ブロックとNSTEMI。他の抗血小板薬の使用率にも差がなく、PCIのアプローチも橈骨動脈が2/3とこれも差がない。

characteristics2
BMSとDESの使用率に差はないが、生体吸収性スキャフォールドはプラスグレル群で多い。PCI後のTIMIグレードは同じ。

◇結果
地域:チェコ共和国
登録期間:2013年4月〜2016年3月
観察期間:30日
無作為化:GraphPad scientific softwareを使用。封筒法。
盲検化:オープンラベル。解析者は盲検化されている。
必要症例数:各群1250例で、1130例が登録された時点で中間解析を行い、試験の早期中止を判断することになっている。
症例数:1230例
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:資金源はチャールズ大学のリサーチプログラムで直接の資金提供はないが、複数のauthorにCOIあり(アストラゼネカ、第一三共)。

result

◇批判的吟味
抗血小板作用による梗塞イベントの抑制と出血イベントの増加はトレードオフである。強力な抗血小板作用により、PCI後の梗塞イベント(ステント血栓症など)を抑えられたとしても、それにより重大な出血が増えてしまえば、そのメリットは相殺されてしまう。なので、梗塞イベントと出血イベントを複合して主要評価項目に設定することは妥当だし、いずれのイベントも急性期に多いので観察期間が1週間というのも妥当だろう。

ただ、この試験はfutilityで早期中止になっている。イベント数が少ないにもかかわらず。もともと2500例で予定されていて、3年間で半分以下しか集まっていないので、しょうがないのかもしれないけど、これだとどちらがいいとも言えない。

◇感想
プラスグレルとチカグレロルの有効性と安全性を直接比較したPRAGUE-18試験。主要評価項目(全死亡、心筋梗塞の再発、脳梗塞、輸血や入院延長を要するような重大な出血、緊急標的血管再血行再建)はどちらも4%程度だったが、イベント数が少なく、”両群とも同等に安全で有効”とは言えない結果だった。

ちなみにチカグレロルはPCI後の抗血小板薬として、2016年9月に日本でも承認されたが、PHILO試験でクロピドグレルと比較し出血を増やしたため、「アスピリンを含む抗血小板剤2剤併用療法が適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限る」という文言が付いてしまっているようだ。

院外心停止でVT/VFなら、CAG/PCIを行った方が生命予後が良くなるかもしれない

Trends and Outcomes of Coronary Angiography and Percutaneous Coronary Intervention After Out-of-Hospital Cardiac Arrest Associated With Ventricular Fibrillation or Pulseless Ventricular Tachycardia
JAMA Cardiol. 2016;1(8):890-899.

《要約》
重要性
The 2015 cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care guidelinesでは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の院外心停止に対し冠動脈造影検査(CAG)を行うことを推奨している。

目的
初期波形が心室頻拍(VT)/心室細動(VF)である院外心停止において、CAGと経皮的冠動脈インターべんション(PCI)の傾向、予測因子、アウトカムを評価すること。

デザイン、セッティング、患者
VT/VFによる院外心停止を対象とした、CAGとPCIに関する観察研究である。2001年1月1日から2012年12月31日までのNationwide Inpatient Sample databeseからデータを抽出した。CAGとPCIを試行することに関連した因子を評価するため多変量解析を行った。データは2015年12月12日から2016年1月5日に解析された。

アウトカム
CAG、PCI、退院時生存率の傾向

結果
407974例がVT/VFによる院外心停止で入院し、143688例(35.2%)にCAGが行われた。全体の平均年齢は65.7±14.9歳で、37.9%が女性であった。74.1%が白人、13.4%が黒人、6.8%がヒスパニック、5.7%が他の人種であった。2000年よりも2012年では、CAGは増加し(27.2%vs43.9%, OR2.47, 95%CI2.25-2.71)、PCIも増加した(9.5%vs24.1%, OR4.80, 95%CI4.21-5.66)。2000年から2012年まで、STEMIの院外心停止ではCAGとPCIは増加し(それぞれ、53.7%vs87.2%, 29.7%vs77.3%)、NSTEMIでも増加した(それぞれ、19.3%vs33.9%, 3.5%vs11.8%)。生存退院は、全体、STEMI、NSTEMIのいずれでも増加した(46.9%vs60.1%, 59.2%vs74.3%, 43.3%vs56.8%)。

結論
VT/VFの院外心停止におけるCAG、PCI、生存退院は増加傾向にある。しかし、VT/VFの院外心停止、特にNSTEMIでのCAG/PCIの施行率は高くない。前向き研究によって、このリミテーションに生存利益があるかどうか検証する必要がある。

◇この論文のPECOは?
P:18歳以上のVT/VFの院外心停止
O:CAG/PCIの施行率、その傾向、生存退院と関連する因子

心拍再開しなかった症例、年齢・性別・退院時生存の有無などの情報が欠落している症例は除外している。

◇デザイン、対象、観察期間
・地域:米国
・後ろ向き
・hierarchical mixed-effects model
・407974例

characteristics
CAG/PCIをやるかどうかは、重大な併存疾患があるとか、activeな悪性腫瘍があるとかでしょうか。悪性腫瘍の割合はCAG未施行群で多い様。意外と収入は関係ないのか。

◇結果
trend
STEMIだと、PCIをやる症例が2000年から倍増して、3/4の症例でやられている。NSTEMIでも増加傾向ではあるが、11%と高くはない。

survival-to-discharge
STEMIでもNSTEMIでもCAGを行った集団では生存退院の割合は多く、年代が進むにつれ生存率は高くなっている。

adjusted-or
PCIをやった方がいいし、若い方がいい。非白人や保険に入っていないと生存退院のオッズ比は低くなるのはアメリカだからなのか。

◇感想
当院だと、VT/VFの院外心停止では、ROSCしたSTEMIやVT/VFが止まらずにPCPSを入れた症例では、ほぼルーチンでCAG/PCIを行っていて、NSTEMIではwitness/bystanderCPRの有無とか、悪そうな併存疾患がないかとかはチェックしてカテをやるようにしている。

院外心停止の症例はもちろん生存退院ができるかどうかは大切なことだけど、神経学的予後も結構重要で、蘇生後脳症のために意識が戻らず気切して転院というケースは少なくない。搬送された時点で神経学的予後についてもわかればいいけど、明確な指標がないので、神経学的に厳しいと予想できる症例であっても、CAG/PCIをやらざるを得ない。

カテをやってみて意外と亜急性期に意識レベル良くなってカテやってよかったと思うこともあれば、予想通り全然戻らなくてカテやった意味があったのかなと思うこともある(むしろ後者の方が多い)。まあ、この研究では、トレンドとしては院外心停止でVT/VFならCAG/PCIをやる傾向になっているし、やった方が生命予後が良くなりそうです。

ステント留置後の心房細動 NOAC+SAPTでいいのか? PIONEER AF-PCI試験

Prevention of Bleeding in Patients with Atrial Fibrillation Undergoing PCI
N Engl J Med. 2016 Nov 14 [Epub ahead of print]

《要約》
背景
PCIを行いステントを留置した心房細動合併患者では、ワーファリン+DAPTの標準的抗血栓療法によって血栓症と脳梗塞のリスクは減少するが、出血のリスクは増大する。リバーロキサバン+SAPTもしくはリバーロキサバン+DAPTの有効性と安全性は明らかではない。

方法
PCIを行った非弁膜症性心房細動の患者2124例を、以下の3群に1:1:1に無作為に割り付けた。
グループ1)低容量リバーロキサバン(15mg/日)+P2Y12阻害薬を12ヶ月内服
グループ2)超低容量リバーロキサバン(2.5mg/日)+DAPTを1・6・12ヶ月内服
グループ3)ワルファリン+DAPTを1・6・12ヶ月内服。
主要安全性評価項目は臨床的に重大な出血(TIMI出血基準で大出血、小出血、治療を要する出血)である。

結果
臨床的に重大な出血の発症率は、リバーロキサバンを内服している2群で、標準的抗血栓療法より低かった(グループ1:16.8%、グループ2:18.0%、グループ3:26.7%、グループ1vs3のハザード比0.59:95%CI0.47−0.76、グループ2vs3のハザード比0.63;95%CI0.50−0.80)。心血管死、心筋梗塞、脳梗塞の発症率は3群で似通っていた(グループ1:6.5%、グループ2:5.6%、グループ3:6.0%、いずれの群間比較でもP値は有意ではなかった)。

結論
PCIでステントを留置した心房細動患者では、12ヶ月の低容量リバーロキサバン+P2Y12阻害薬の内服、1・6・12ヶ月の超低容量リバーロキサバン+DAPTは、1・6・12ヶ月のワルファリン+DAPTの標準的抗血栓療法と比較し、臨床的に重大な出血が少なかった。3群の有効性に差はなかったが、信頼区間の幅は広い。

◇この論文のPICOはなにか
P:PCIを行なった非弁膜症性心房細動患者
I/C:以下の3群に1:1:1に割り付け
グループ1)低容量リバーロキサバン(15mg/日)+P2Y12阻害薬を12ヶ月内服
グループ2)超低容量リバーロキサバン(2.5mg/日)+DAPTを1・6・12ヶ月内服
グループ3)ワルファリン+DAPTを1・6・12ヶ月内服。
O:TIMI出血基準での臨床的に重大な出血(大出血+小出血+治療を要する出血)

inclusion criteria:18歳以上、発作性・持続性・慢性の非弁膜症性心房細動、1年以内に心房細動がドキュメントされていること、1年以内に心房細動がドキュメントされていなくてもPCIの3ヶ月前から抗凝固療法を行なっている場合

exclusion criteria:脳梗塞/TIAの既往、12ヶ月以内の重大な消化管出血、CCr<30ml/min、原因不明の貧血(Hb<10g/dl)、その他出血リスクがある患者

手順:PCIのシースを抜去72時間後にPT-INR2.5未満であれば無作為化を行う。無作為化の前にDAPT期間と使用するP2Y12阻害薬(クロピドグレル/プラスグレル/チカグレロル)を決めておき、それに応じて層別化を行う。

◇baselineは同等か
characteristics
同等。平均70歳で、1/4が女性。ほとんどが白人。CCrは平均だと80ml/minぐらいで良いが、30−60ml/minも30%弱いる。ACSが半分。P2Y12阻害薬はほぼクロピドグレル。ステントは2/3がDESで、1/3がBMS。ワーファリンのTTRは65.0%とちょっと低め(治療域は2.0−3.0と設定)。CHA2DS2-VAScは平均で3−4ぐらい?

◇結果
地域:北米、南米、欧州など
登録期間:2013年3月〜2015年7月
観察期間:12ヶ月
無作為化:記載なし。
盲検化:オープンラベル。アウトカム評価者は盲検化されている。
必要症例数:記載なし。
症例数:2124例
追跡率:100%
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与あり(Janssen Scientific Affairs社、バイエル社)。リバーロキサバンは無料で提供。

kaplan-meier
DAPT+ワルファリンが有意に出血が多い。
secondary efficacy endpointは心血管死、心筋梗塞、脳梗塞の複合エンドポイントで、有意な差はなかった。

result
治療を要する出血(bleeding requiring medical attention)の定義がいまいちわからないけど、TIMI出血基準の小出血より軽度な出血のことらしい。大出血と小出血は、ワルファリン+DAPTが多い傾向だけど有意差はなくて、有意差がついているのは治療を要する出血という部分だけ。

result2
primary endpointの出血うんぬんより、個人的にはこっちの方が気になる。どれもイベント数が少なくて、有意な差はない。

◇批判的吟味
・primary endpointで有意差がついているが、その内訳をみると治療を要する出血(bleeding requiring medical attention)で有意差がついている。もちろん感覚的には納得できるが、これはソフトなエンドポイントであり、かつオープンラベルなので、バイアスが入るかもしれない。
・なぜ出血をprimary endpointにしているんだろう。梗塞+塞栓イベントをprimary endpointに設定して欲しかった。
・梗塞+塞栓イベントがsecondary outcomeに設定されているが、イベントの発生が少なくて本当に差があるのかどうかはわからない(3群とも同等と解釈してはいけない)。
・可能であれば、3−5年ぐらいの観察期間でsecondary outcomeがどうなっているか見てみたい。
・超低容量リバーロキサバン併用で塞栓イベントは増えないのか?
・日本だと低容量は10mg?、超低容量はどうすれば?
・ロストフォローアップはないが、どの群も20−30%で治療中断あり。

◇感想
PCIを行なった心房細動患者の抗血栓療法について結論はでていないが、WOEST試験の結果を踏まえて、抗血小板薬は単剤にしていることが多い(ACSなら最初は3剤)。それでもステント血栓症は経験してないので、抗血小板薬と抗凝固薬の2剤でいいんだろうなあという感触は持っています。

抗凝固薬はワルファリンじゃなくてNOACでいいのかわからないが、多くの場合にNOACを使っていると思われるし、自分もそうしている。このPIONEER AF-PCI試験は、NOAC+抗血小板薬でもいいのか検証した試験で、結果としてはワルファリン+DAPTよりも出血は有意に少なく、心血管死、心筋梗塞、脳梗塞は増えなかった。

それにしても、なんで出血がprimary endpointになっているんでしょうか。個人的には、むしろNOAC+抗血小板薬の2剤にすることで、梗塞や塞栓が増えないかが知りたかったので、secondary endpointに設定されている心血管死、心筋梗塞、脳梗塞を、primary endpointでやってほしかった。それだと、Nがでかくなりすぎるので難しいのでしょう。

あと、グループ2でATLAS ACS 2-TIMI51試験のレジメンを持ってきているが、この超低容量で塞栓イベントが増えないのかも気になる。

secondary endpointの心血管死、心筋梗塞、脳梗塞はイベント数が少なく、本当に差があるかどうかがわからない。これはもっと長い期間観察しないとわからないと思うので、3−5年のデータがでてくるといいなあと思いますが、1年以降の抗血栓療法をどのようにするかにもよるでしょう。

まあとりあえず、ルーチンで3剤飲まないといけないということはなさそうなので、今の感じの抗血栓療法(NOAC+P2Y12阻害薬の2剤で、ときどき3剤)でよさそうです。

CABGで内胸動脈を両側使用した方がいいのか:ART試験

Randomized Trial of Bilateral versus Single Internal-Thoracic-Artery Grafts
N Engl J Med. 2016 Nov 14 [Epub ahead of print]

《要約》
背景
冠動脈バイパス術(CABG)で、両側内胸動脈のグラフトは、片側内胸動脈と静脈グラフトを使用するより、長期的なアウトカムを改善させるかもしれない。

方法
7ヶ国28施設で、CABGが予定されている患者を、片側内胸動脈を用いたCABGと両側内胸動脈を用いたCABGに無作為に割り付けた。主要評価項目は10年間の全死亡である。全死亡、心筋梗塞、脳梗塞の複合エンドポイントを副次評価項目とした。中間解析は5年時に行うこととした。

結果
3102例を登録し、1554例を片側内胸動脈を用いたCABGに、1548例を両側内胸動脈を用いたCABGに無作為に割り付けた。5年間のフォローアップで全死亡は両側内胸動脈群で8.7%、片側内胸動脈群で8.4%で(HR:1.04、95%CI:0.81−1.32)、全死亡・心筋梗塞・脳梗塞の複合エンドポイントは12.2%vs12.7%であった(HR:0.96、95%CI:0.79-1.17)。胸骨創部に関連した合併症は、両側内胸動脈群で3.5%、片側内胸動脈群で1.9%(P=0.005)、胸骨再建は両側内胸動脈群で1.9%、片側内胸動脈群で0.6%であった(P=0.002)。

結論
CABGで内胸動脈を片側だけ使用するか、あるいは両側使用するかで、5年間の死亡あるいは心血管複合イベントに有意差はなかった。胸骨の創部に関連した合併症は、片側内胸動脈群より両側内胸動脈群で多かった。10年間のフォローアップは現在進行中である。

◇この論文のPICOはなにか
P:CABGを予定されている患者
I:両側内胸動脈を用いたCABG
C:片側内胸動脈を用いたCABG
O:10年間の全死亡(secondary endpoint:全死亡+心筋梗塞+脳梗塞)

inclusion criteria:多枝病変
exclusion criteria:一枝疾患、弁膜症の手術も行う患者、再手術例

◇baselineは同等か
characteristics
同等。EF、僧帽弁閉鎖不全症(MR)の合併の有無とその程度についての記載はない。

◇結果
地域:7ヶ国
登録期間:2004年6月〜2007年12月
観察期間:5年間
無作為化:施設ごとの層別化を伴う置換ブロック法。コーディネーティングセンターへ電話して無作為化を行う。
盲検化:オープンラベルだがアウトカムへの影響はない
必要症例数:3000例(10年間の全死亡は両側内胸動脈群で20%、片側内胸動脈群で25%、power90%、αlevel0.05で2928例と算出され、たぶんロストフォローアップを加味してか、必要症例数を3000例としている)
症例数:3102例(両側内胸動脈群:1548例、片側内胸動脈群:1554例)
追跡率:両側内胸動脈群:1477/1548例(95.4%)、片側内胸動脈群:1492/1554例(96.0%)
解析:ITT解析
スポンサー:企業の関与なし

片側内胸動脈群で内胸動脈を使用したのは96.1%、両側内胸動脈群で両側とも内胸動脈を使用したのは予想より高かったらしく83.6%であった。40.6%でoff-pump CABGが行われたようだが、群間差があるのか記載なし。

5年の時点での内服薬には群間差なし。
アスピリン:88.9%
β遮断薬:76.2%
スタチン:89.0%
ACE阻害薬/ARB:73.4%

result

◇批判的吟味
・両側内胸動脈が使用されたのは83%と予想より低く、差を薄める方向に働くかも。
・off-pump CABGの割合に群間差があるかわからない(脳梗塞への影響)。
・生命予後に影響を与える因子として、baselineのLVEFとMRの有無と程度についての記載がない。
・薬剤(アスピリン、スタチンなど)の使用率に群間差はないが、少し低い。
・一般的に静脈グラフトは動脈グラフトより開存率が劣るが、その使用率がわからない。
・追跡率は高い。

◇感想
CABGで両側の内胸動脈を使用しても片側でも、5年の時点での生存率に差はないという結果。5年で差がつかないなら、70歳を超えるような高齢者では、片側の内胸動脈だけで十分かもしれいない。

静脈グラフトとin-situの内胸動脈の差が出てくるのはこれからと思われるので、10年間のフォローアップで有意な差が出てくるかどうか(Kaplan-Meierをみるとあまり変わらない雰囲気)。もし、10年のスパンで差がでてくるなら、若年でCABGをする人には両側内胸動脈で、ということになるかもしれない。